ガキ的愛情表現の結末【完】
「あ、雪――」


先ほど振り出した雨は雪に変わっていた。


「あ、ラッキー」

「なにがラッキーなの?」

「傘持って来てなかったから。
 雨より雪の方がまだマシじゃね?」

「それは確かにそうだね。
 私も傘なかったから、ラッキー」


この2人にしては和やかな会話。



それが途切れたのを見計らって、ふたたび氷川先生がやって来た。



「渡辺は6月に転校するんだったな」


このことを哲也が知らないと思っていた氷川先生は、哲也に聞かせるために言った。


もうすぐ別れが訪れることを、さり気なく哲也に知らせたかったのだ。


だが、有希はまだ、それを哲也には知られたくなかった。


「て、転校なんてしません。引っ越すだけです」


転校しないとだけ言えばそれでよかったのに「引っ越すだけ」と付け加えてしまったのは、「嘘」に対する後ろめたさがあったせいだろう。



有希の慌てぶりに、


「ああ、そうだったな。引っ越すだけだったな」


氷川先生はとりあえず話を合わせたが。



黙って仕事をしているフリをしていた哲也は、内心ショックを受けていた。



転校することを知られたくない――。


その気持ちは、転校経験のない哲也にも理解できた。



だが、たった数カ月前に出会った裕之には話していたのに、自分には偶然知られることさえ拒む有希――。


その事実に、胸をえぐられるような痛みを感じていた。


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