今日僕は魔女を拾いました
遅くに帰宅した博仁、さゆりは何もその日は言わなかった。
表情を見るだけで、彼に言い過ぎたことを反省したからだ。


(なんか・・・かわいそうだったかな。
つらそうな顔をして、こっちを見てるわ。
たった、30年しか生きてない異世界の彼にとっては仕方のないことなのに、むきになって怒ったりして。
私は・・・。)


翌日、さゆりが食事を用意する頃には博仁は仕事に出かけてしまっていた。

博仁はまだ情けない顔をさゆりには見せたくなかったこともあるし、今さゆりに対して自分の気持ちを表す勇気もないと思った。


「僕には、戦闘術も何もない。
ただ、きちんと自分の仕事をこなすことだけが今の課題なんだ。
もちろん、彼女が自分の世界に帰るまでには、自分の気持ちを伝えよう・・・。
そう、伝えるだけだ。
僕にはそれしかできないから・・・。さぁ、仕事仕事!」


いつものように始発電車に乗り込んで朝のラッシュに立ち向かう。

そう、いつもの朝はこんなものだ。



そして、ピークを過ぎた8時49分発の電車で事件が起こった。


博仁が車掌をしている電車の最後部で切り付け魔騒ぎが起こった。

車内が一時的にパニックになりかけたが、どうやらこれも模倣犯と思われる事件で切り付けられたという女性は体ではなく、カバンの取っ手部分を切られてそれを見ていた隣に立っていた男性2人がカバンと中に入っていたものを守ったようだった。

しかし、犯人がすばやく車内から降りようとしたときに女子大学生にぶち当たり、悲鳴と同時に女子大学生は電車のドアの前に倒れてしまった。


「動かさないで!」

博仁はちょうど、直前で交代するところだったので、応援を頼むことができた。

そして、博仁はそのまま彼女に付き添って救急車に乗り込んだ。


病院に着くとすぐにレントゲンを始めとする検査が始まり、結局、女子大学生は脳震とうと打撲だけであった。



「う・・・いたっ。あたたた・・・・。」


「大丈夫かな?脳震とうと打撲だけとはいえ、すごい勢いで突き倒されたからね、気をつけないとね。」


「あの・・・お兄さんは駅員さん?
私・・・学校に行く途中で・・・電車からホームの方にとばされてしまって・・・。」



「うん、大変な目にあっちゃったね。
僕は湘急電鉄の車掌で高津といいます。
僕はちょうど交代だったから、そのまま付き添わせてもらいました。

もう少ししたら、お母さんがお見えになると思います。
いちおう状況説明をして、お母さんに君をお渡ししたら会社にもどりますね。」


「あの・・・私、ずっと気絶してて何が起こったのか、どうなってここに寝ているのか事情がわかりません。
説明していただけないですか?」
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