今日僕は魔女を拾いました
博仁はさゆりに自分の自宅にもどっているように言った。

さゆりの目的は済んだが、事情を知ってしまった以上、今の博仁には彼女を見送ることなんてできなかったのである。


「博仁さんは、優しいな。
でも、私の心臓を抱えるとか死体を持っていくなんて・・・気持ち悪いよね。
だいたい、魔法使いの私っていっても見た目が殺人行為なんて、博仁さんにはできないこと。

私だってすぐに魔界へ帰るのは・・・無理みたいだもん。」




その日の夜、博仁はミスをした先輩に引きずられて居酒屋にいた。

「困ったな・・・もうこんな時間。
さゆりさん心配してるかもしれないな。

いや、もしかして、魔界へ帰ってしまったかも・・・どうしようか。」


「大丈夫よ、気にしないで。」


「えっ?うわぁ!!さ、さゆりさん・・・どうしてここに!」


「いちおう心配になったから、来ちゃった。」


「そ、そうか。ごめん・・・先輩が仕事でミスって上司に怒られたんだ。
それで、つきあわされちゃってさ。」


「これで何軒目だっけ?」


「5軒目・・・。もうそろそろおひらきにしてほしいんだけど。」


「ふむ、じゃあ、先輩さんにはいいお相手を用意しちゃいましょう!
えいっ!頼むわね。」


「なっ、すごい美人ママさん!?」


「あ、博仁さんも同じお酒飲んでるからママが見えるのね。
先輩さんはずっとグチをママにきいてもらえるから安心して。

他のお客さんから見るとね、お椀にしか見えないでしょうけどね。」


「そ、そうなのかい?」


「うん、ちょっと調理場で貸してもらったの。うふふ。
それより、お腹すいてるんでしょ?

お夕飯作ってあるから、帰りましょ。
ぱぱっとね。」


「それは、こま・・・いや帰ろうか。
ぱぱっと。頼むよ。」



さゆりは魔法で博仁の家へと帰宅した。


「こりゃ、すごいな。
あ、でも・・・僕にはプライバシーもないってことなのかな。」


「それは大丈夫よ。
私もそこまでひどいことはしないわ。

べつに恋人でも何でもないんだから。
明日にでも、ここを出て、魔界にもどろうかと思ってるし。」


そう、さゆりがしゃべった瞬間、博仁は掴みかかるようにして声をあらげた。


「君は、魔界に恋人がいるわけじゃないんだろう?
だったら・・・!」


「今はいないわ。でも早くもどって恋人を見つけないと!」


「キスしたらカエルになるのを受け入れられる男がいると思うのかい?」


「いるかもしれないし・・・。」


「いないね。カエルになっても、思ったことを読まれることも、受け入れられるのは僕くらいだろ。
そんないい男を見過ごして帰るつもりなのか?」


「でも、私を殺せないわ。」


「あ・・・。」


「博仁さんは優しい人だから私を殺せない。
ありがと・・・。
親切にしてくださって感謝しています。

それとご両親にもお礼をいっておいてください。
人間として一生を楽しく過ごせたおばあちゃんのこともほんとにわかってうれしかった。
それだけで、私・・・。十分だから。」
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