初恋も二度目なら
「長峰さん、お待たせしました。これ・・・」
「おまえのメガネ、めっちゃ分厚いレンズだなー」
「・・・・・・はい?」

確かに、私は視力がかなり悪いので、中学生の頃から分厚いレンズのメガネをかけていた。
でもそのことよりも、背が高くておデブな女子だという方が、私にとってはすごいコンプレックスだったので、メガネのことはあまり気にしたことがなかった。

長峰さんは、私の方に一歩近づくと、私を覗き込むようにじーっと見た。
それだけで、男慣れしてない私はドギマギしてしまって・・・。
きっとあの時、私の顔は、ゆでだこのように真っ赤になっていたに違いない。

「あ、あの、何・・・きゃっ」

長峰さんの左手がスッと伸びた。
と思ったら、私のメガネをそっと持ってずり上げた。

「・・・やっぱおまえはメガネかけといたほうがいい」
「はぃ?あの、それはいいので、メガネを・・・」
「あぁわりー」

と言ってる割には、全然悪いと思ってない声で長峰さんは言うと、すぐに私のメガネをかけ戻してくれた。
でもその後、「おまえさ、すっげー目ヂカラあるから、おまえの裸眼見ていいのは俺だけ。な?」と私の耳元で囁くと、何事もなかったかのように、総務エリアから出て行った。

な、なに。いまの・・・。

ハッとして周囲を見渡したけど、そんな「やりとり」があったなんて、誰も気づいてないようだ。
皆仕事に没頭している姿を確認できてホッとしつつ、私はスタスタと優雅に歩く長峰さんの後姿が見えなくなるまで、目に焼きつけるように見ていた。

思えば、この時私は、長峰さんに恋したのかもしれない。
だって彼は私のことを、「大柄なおデブ女」という認識を持たず、単に「視力が悪い女」としてしか見てなかったから。

それまで、私にとって長峰悠里という人は、アイドル的な存在で、「好き」というより、憧れの気持ちのほうが強かったと思う。
でもこの一件を機に、私は長峰さんのことを、一人の男性として意識し始めた。

私は、初めて誰かを好きになった。

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