初恋も二度目なら
それにしても部長は、一体私に何の用があるんだろう。
今日は川端くんと映画を観に行くから、すぐ終わるといいんだけど。
と私は思いながら、壁にかかっている時計を見た。

6時45分。
上映時間は8時半から、会社からRシネマまで、地下鉄で10分だから・・・今のところは、まだ大丈夫。

「あれ?卜部ちゃん、まだいたんだ」
「うん。実は部長に頼まれて・・・」
「あ、そう。じゃあ俺も一緒に待ってよっか」
「ううん!そんな、悪いよ。それに部長が帰ってくれば、すぐ用件は終わると思・・・」
「悪いが、何時に終わるか分からない」
「・・・え。ぶちょ・・・」

私は「おかえりなさい」も言わずに、キリッとした部長の顔を呆然と仰ぎ見た。

「だからおまえらの“用”はキャンセルしてくれ」
「そ、そんな!あの、部長の用件は、私がいないとダメなんですか?」
「ダメだ」
「今からしないとダメなんですか!」
「ダメだ」
「うぅ・・・」
「俺も手伝いましょうか」
「いや、いい」

何よこれ。
私はともかく、川端くんにまですげない態度で!

どうしていいのか分からない、みたいな感じでその場に立っている川端くんを、これ以上巻き込むのはかわいそうだと思った私は、「川端くん、ごめんね」と言うことで、川端くんをこの場から帰すきっかけを作った。

川端くんは、これ幸いとばかりに頷くと「また今度な。おつかれさまでした!」と言って帰っていった。

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