セカンド☆ライフ
俺達の街は真ん中を縦断する大きな川を挟み、東西に分かれている。
東西それぞれに一通りの施設が備わっているため、行き来する必要性は薄い。
特に俺達学生はなおさらだ。
小中高と東側だった俺は、自発的に西側に行ったことはない。
同じ街でありながら、実は未知の土地に近い。
《しのちゃ〜ん》
《ゆいりくんおはよ〜》
《おはよ〜》
《こんな朝早くからどうしたの?》
《しのちゃん今日ヒマ?》
《暇だよ〜》
《じゃぁえっと…で…デート…しない?》
《え!?で…ででで…デート…ですか!?》
《あ!嫌ならいいんだけどね!》
《嫌じゃない!行く!5秒で!》
《マジか!じゃ5秒後に中央橋の前でいいかな?》
《は…はい!すぐ行く!》
東西を結ぶ橋は4つある。
その中で一番大きな橋が中央橋だ。
ちょうど街の中央に位置し、俺達の住むエリアからも近い。
『お…おはようゆいりくん!』
『おは…うおっ!なにその格好!』
まるでウェディングドレスのような純白のドレスを着込んでいる。
『へ…変かな…?』
『いや…綺麗だけど…ちょっと派手すぎない?』
『そ…そうかな…デートって初めてだからどんな服着たらいいのかわかんなくて…』
『ハハ…いつも通りの制服でいいんじゃないかな…俺も制服だし』
『制服デートだね!わかった!』
(しのちゃん…意外と天然なのかな…)
『それで?どこに行くの?』
『西側に』
『西側?』
『うん、向こうはノイズについての研究が進んでるらしくてさ』
『あ…そっか…そういうことか…』
『ん?どうかした?』
『ん!なんでもない!行こ♪』
『うん』
(とは言え…どこに行けばいいんだろ…)
眼前の景色に見覚えはあるものの、だからと言ってどこに何があるのかはさっぱりわからない。
『しのちゃんはこっちに詳しかったりする?』
『う〜ん…詳しくはないけど、確か橋を渡って左に曲がるとショッピングモールがあったと思う』
『あぁ、そう言えばそんなのあったね』
『あとは…右に行くと中学校があったよう…』
『おいお前ら!』
『ん?』
『見かけねぇやつらだな?』
中学生くらいの男がフヨフヨと俺達の方に近寄ってきた。
『あぁ、俺ら東側から来たんだ』
『そっか、なんかセカンドになっても川は渡らないからな俺達』
ケラケラと明るい笑いを浮かべる少年。
『そう言えばそうだな』
『んで?何しに来たんだ?』
『いやまぁ…デートかな』
ドヤ顔で言ってみた。
『ふ〜ん、デートねぇ』
『おう』
鼻息をスピスピいわせながら自慢気に言ってみた。
『ホルダーと?』
!?
場の空気が一瞬で凍りつく。
(なんだコイツ…)
『あ…あの…私…その…』
《しのちゃん、ここは下手に話さないほうがいい》
《うん…ごめん》
『ん?そんな身構えんなよ、こっちじゃホルダーなんて珍しくねぇよ』
『は?』
『デートしてるホルダーは珍しいけどな』
ゲラゲラと笑っている。
(なんだこの展開…)
『俺は田井中 成法(タイナカ セイホウ)』
『水辺…』
『横峰です…』
『こう見えても享年48歳だ』
『なっ!?』
『セカンドの世界で見た目や歳なんて無意味だろ』
『まぁ…』
『で?お前ら本当にただのデートか?』
『いけませんか?』
『いや?ただこっちは今ホルダー狩りが流行っててな』
『ホルダー狩り!?』
『ああ、だから戻ったほうがいいぞ?って忠告してやろうかとな』
『なるほど…一つ聞いていいですか?』
『なんだ?』
『貴方はどうして彼女がホルダーだと?ノイズなんて出てないのに…』
『ああ、ここ通るヤツら全員にカマかけてるだけだ、こんなわかりやすいヤツらも珍しいぞ』
ゲラゲラと下品に笑っている。
(クソっ…なんか腹立つな…)
『あの!』
『なんだい可愛いホルダーさん』
『その…ホルダー狩りって…どういうことですか?』
『ん〜、俺も詳しくは知らんのだがね、ノイズへの対抗手段を発見したって連中がいてね、ホルダーを見つけては”消滅“させてんだよ』
『消…滅?』
(しのちゃん…怯えてる…)
『そんなことできるんですか?』
『さぁなぁ?俺は実際に見たわけじゃねぇしなぁ』
『そう…ですか…』
《どうする?ゆいりくん…》
《うん、おっかないから帰ろうか》
《でもそれだとデートが…》
《別にどうしてもこっちじゃないといけないわけじゃないし、続きは地元でやろう》
《うん、ありがとう》
『田井中さん…でしたっけ?』
『なんだね少年』
『ありがとうございました、俺達戻りますね』
『そうかそうか、でも無理じゃないかな?』
『え?』
『いやだってもう通報しちまったもん』
『は?』
『悪いなニイちゃん、俺ぁホルダーってのが大嫌いでね…』
『ちょ…しのちゃん逃げ…!?』
『ゆいりくん…』
振り返ると詩乃の両手足に黒い霧のようなモノが絡みついている。
『ノイズ!?』
詩乃の背後から全身をノイズに覆われた人物が姿を現した。
『ホルダー?どういうこと!?』
『ホルダーの物理干渉を使ってホルダーを飲み込む…』
ノイズに覆われた人物が喋り出す。
声から察するに男性のようだ。
『ホルダーがホルダーを!?』
『ホルダーは悪影響を振り撒く、ホルダーを消すにはもう共食いしかない』
(はぁ!?何言ってんだコイツ!!)
『ちょ…待て!』
男のノイズがだんだんと詩乃を飲み込んでいく
『待てってば!』
『ホルダーは助からん、この女もいずれノイズに飲まれる、諦めろ』
『話聞けって!ホルダーを助ける方法があるんだって!!』
『!?』
男のノイズが止まった。
『その子はホルダーじゃない!元ホルダーだ!』
『元…?』
『そう!元!治ったの!』
『デタラメを…そんなことは有り得ん』
『証明してやる!』
『証明だと?』
『その子の右手だけでいいから拘束を解いてくれ、証明してみせるから』
『右手だけで何ができる』
『いいから!信じてくださいって!』
『…やってみろ』
詩乃の右手からノイズが消えた。
《しのちゃん、俺を信じて》
《うん、どうすればいい?》
《実を言うと俺も確証はない、かなり分の悪い博打になる、でも大丈夫、大丈夫な気がする!》
《わかった、信じてる!》
《じゃぁ、右手を前に出して、俺と手を繋ぐことをイメージして》
詩乃が右手を差し出す。
俺もその手を握るように差し出す。
(最小限で…リンク!)
手と手が触れ合う。
『!?』
『な?ホルダーならわかるよな?物理干渉』
『ばかな…一般人がノイズなしで物理干渉なんて有り得ない…』
『実際目の前で有り得てんじゃん』
『お前ら何者だ?なぜそんなことができる?』
『えっと…愛の力…ってことで…ダメ?』
『ふざけるな!』
男のノイズがまるで俺を威嚇するように膨れ上がる。
『ちょ!ごめ!落ち着けって!』
『詳しく聞かせろ』
『わかった、その代わりまずしのちゃんを解放しろ』
『話が先だ、解放するかどうかは話を聞いてから決める』
『解放が先だ、それは譲らん』
『……………』
『……………』
『……………』
『……………』
(頼む!ハッタリ通じてくれ!)
『いいだろう』
(通じたぁぁぁ!)
男は詩乃を解放し、自らのノイズを収めた。
三十代くらいの風貌、細身で学者風にも見える。
(いや学者要素は眼鏡だけだけどな)
『それで?お前達は何者だ?』
『ちょっと待ってください、この子を休ませたい、どこか静かな場所へ移動しませんか?』
『注文が多いな』
『おたくが不意打ちなんかするからでしょ』
『チッ…』
(舌打ちした!この人舌打ちしたよ!露骨に怖いよ!)
『ついて来い』
(あ、でも応じてくれた、意外といい人?)
男は俺達を近くの廃病院へと招き入れた。
『うへ…なんか怖いよここ…』
『幽霊そのものが何を怖がる必要がある?』
『まぁそうなんだけどさ…』
『いいかげん聞かせてもらおうか、お前達が何者なのかを』
『俺達は…』
東西それぞれに一通りの施設が備わっているため、行き来する必要性は薄い。
特に俺達学生はなおさらだ。
小中高と東側だった俺は、自発的に西側に行ったことはない。
同じ街でありながら、実は未知の土地に近い。
《しのちゃ〜ん》
《ゆいりくんおはよ〜》
《おはよ〜》
《こんな朝早くからどうしたの?》
《しのちゃん今日ヒマ?》
《暇だよ〜》
《じゃぁえっと…で…デート…しない?》
《え!?で…ででで…デート…ですか!?》
《あ!嫌ならいいんだけどね!》
《嫌じゃない!行く!5秒で!》
《マジか!じゃ5秒後に中央橋の前でいいかな?》
《は…はい!すぐ行く!》
東西を結ぶ橋は4つある。
その中で一番大きな橋が中央橋だ。
ちょうど街の中央に位置し、俺達の住むエリアからも近い。
『お…おはようゆいりくん!』
『おは…うおっ!なにその格好!』
まるでウェディングドレスのような純白のドレスを着込んでいる。
『へ…変かな…?』
『いや…綺麗だけど…ちょっと派手すぎない?』
『そ…そうかな…デートって初めてだからどんな服着たらいいのかわかんなくて…』
『ハハ…いつも通りの制服でいいんじゃないかな…俺も制服だし』
『制服デートだね!わかった!』
(しのちゃん…意外と天然なのかな…)
『それで?どこに行くの?』
『西側に』
『西側?』
『うん、向こうはノイズについての研究が進んでるらしくてさ』
『あ…そっか…そういうことか…』
『ん?どうかした?』
『ん!なんでもない!行こ♪』
『うん』
(とは言え…どこに行けばいいんだろ…)
眼前の景色に見覚えはあるものの、だからと言ってどこに何があるのかはさっぱりわからない。
『しのちゃんはこっちに詳しかったりする?』
『う〜ん…詳しくはないけど、確か橋を渡って左に曲がるとショッピングモールがあったと思う』
『あぁ、そう言えばそんなのあったね』
『あとは…右に行くと中学校があったよう…』
『おいお前ら!』
『ん?』
『見かけねぇやつらだな?』
中学生くらいの男がフヨフヨと俺達の方に近寄ってきた。
『あぁ、俺ら東側から来たんだ』
『そっか、なんかセカンドになっても川は渡らないからな俺達』
ケラケラと明るい笑いを浮かべる少年。
『そう言えばそうだな』
『んで?何しに来たんだ?』
『いやまぁ…デートかな』
ドヤ顔で言ってみた。
『ふ〜ん、デートねぇ』
『おう』
鼻息をスピスピいわせながら自慢気に言ってみた。
『ホルダーと?』
!?
場の空気が一瞬で凍りつく。
(なんだコイツ…)
『あ…あの…私…その…』
《しのちゃん、ここは下手に話さないほうがいい》
《うん…ごめん》
『ん?そんな身構えんなよ、こっちじゃホルダーなんて珍しくねぇよ』
『は?』
『デートしてるホルダーは珍しいけどな』
ゲラゲラと笑っている。
(なんだこの展開…)
『俺は田井中 成法(タイナカ セイホウ)』
『水辺…』
『横峰です…』
『こう見えても享年48歳だ』
『なっ!?』
『セカンドの世界で見た目や歳なんて無意味だろ』
『まぁ…』
『で?お前ら本当にただのデートか?』
『いけませんか?』
『いや?ただこっちは今ホルダー狩りが流行っててな』
『ホルダー狩り!?』
『ああ、だから戻ったほうがいいぞ?って忠告してやろうかとな』
『なるほど…一つ聞いていいですか?』
『なんだ?』
『貴方はどうして彼女がホルダーだと?ノイズなんて出てないのに…』
『ああ、ここ通るヤツら全員にカマかけてるだけだ、こんなわかりやすいヤツらも珍しいぞ』
ゲラゲラと下品に笑っている。
(クソっ…なんか腹立つな…)
『あの!』
『なんだい可愛いホルダーさん』
『その…ホルダー狩りって…どういうことですか?』
『ん〜、俺も詳しくは知らんのだがね、ノイズへの対抗手段を発見したって連中がいてね、ホルダーを見つけては”消滅“させてんだよ』
『消…滅?』
(しのちゃん…怯えてる…)
『そんなことできるんですか?』
『さぁなぁ?俺は実際に見たわけじゃねぇしなぁ』
『そう…ですか…』
《どうする?ゆいりくん…》
《うん、おっかないから帰ろうか》
《でもそれだとデートが…》
《別にどうしてもこっちじゃないといけないわけじゃないし、続きは地元でやろう》
《うん、ありがとう》
『田井中さん…でしたっけ?』
『なんだね少年』
『ありがとうございました、俺達戻りますね』
『そうかそうか、でも無理じゃないかな?』
『え?』
『いやだってもう通報しちまったもん』
『は?』
『悪いなニイちゃん、俺ぁホルダーってのが大嫌いでね…』
『ちょ…しのちゃん逃げ…!?』
『ゆいりくん…』
振り返ると詩乃の両手足に黒い霧のようなモノが絡みついている。
『ノイズ!?』
詩乃の背後から全身をノイズに覆われた人物が姿を現した。
『ホルダー?どういうこと!?』
『ホルダーの物理干渉を使ってホルダーを飲み込む…』
ノイズに覆われた人物が喋り出す。
声から察するに男性のようだ。
『ホルダーがホルダーを!?』
『ホルダーは悪影響を振り撒く、ホルダーを消すにはもう共食いしかない』
(はぁ!?何言ってんだコイツ!!)
『ちょ…待て!』
男のノイズがだんだんと詩乃を飲み込んでいく
『待てってば!』
『ホルダーは助からん、この女もいずれノイズに飲まれる、諦めろ』
『話聞けって!ホルダーを助ける方法があるんだって!!』
『!?』
男のノイズが止まった。
『その子はホルダーじゃない!元ホルダーだ!』
『元…?』
『そう!元!治ったの!』
『デタラメを…そんなことは有り得ん』
『証明してやる!』
『証明だと?』
『その子の右手だけでいいから拘束を解いてくれ、証明してみせるから』
『右手だけで何ができる』
『いいから!信じてくださいって!』
『…やってみろ』
詩乃の右手からノイズが消えた。
《しのちゃん、俺を信じて》
《うん、どうすればいい?》
《実を言うと俺も確証はない、かなり分の悪い博打になる、でも大丈夫、大丈夫な気がする!》
《わかった、信じてる!》
《じゃぁ、右手を前に出して、俺と手を繋ぐことをイメージして》
詩乃が右手を差し出す。
俺もその手を握るように差し出す。
(最小限で…リンク!)
手と手が触れ合う。
『!?』
『な?ホルダーならわかるよな?物理干渉』
『ばかな…一般人がノイズなしで物理干渉なんて有り得ない…』
『実際目の前で有り得てんじゃん』
『お前ら何者だ?なぜそんなことができる?』
『えっと…愛の力…ってことで…ダメ?』
『ふざけるな!』
男のノイズがまるで俺を威嚇するように膨れ上がる。
『ちょ!ごめ!落ち着けって!』
『詳しく聞かせろ』
『わかった、その代わりまずしのちゃんを解放しろ』
『話が先だ、解放するかどうかは話を聞いてから決める』
『解放が先だ、それは譲らん』
『……………』
『……………』
『……………』
『……………』
(頼む!ハッタリ通じてくれ!)
『いいだろう』
(通じたぁぁぁ!)
男は詩乃を解放し、自らのノイズを収めた。
三十代くらいの風貌、細身で学者風にも見える。
(いや学者要素は眼鏡だけだけどな)
『それで?お前達は何者だ?』
『ちょっと待ってください、この子を休ませたい、どこか静かな場所へ移動しませんか?』
『注文が多いな』
『おたくが不意打ちなんかするからでしょ』
『チッ…』
(舌打ちした!この人舌打ちしたよ!露骨に怖いよ!)
『ついて来い』
(あ、でも応じてくれた、意外といい人?)
男は俺達を近くの廃病院へと招き入れた。
『うへ…なんか怖いよここ…』
『幽霊そのものが何を怖がる必要がある?』
『まぁそうなんだけどさ…』
『いいかげん聞かせてもらおうか、お前達が何者なのかを』
『俺達は…』