セカンド☆ライフ

再会

俺が死んでから二日後…

厳かな空気の中、俺の葬儀が行われている。

(母ちゃん…泣いてる…オヤジも…姉ちゃんも…俺…ここにいるんだけどな…)

『自分の葬式は堪えるでしょ?』

背後から不意に声をかけられた。

『うわぁぁぁぁっ!!!』

驚いて振り向くと純流さんがフヨフヨと漂っていた。

『脅かさないでくださいよ純流さん…心臓が止まるかと…あ』

『ふふ、ないよ?心臓♪』

(言うと思った…)
『純流さんはこのへんに住んでるんですか?』

『まぁそうだね、住んでると言うか、浮いてる?だけだけどね♪』

『なるほど…』

『どうだい?死の実感は湧いた?』

『そうですね…さすがにこれ見ちゃうと認めるしかないですよね』

『大抵の人は自分の葬式で実感するからね』

『純流さんは違ったんですか?』

『昔のことすぎて忘れちゃったよ♪』

(なぜ爽やかな笑顔…と言うかこの人いつの時代の人だ…)
『そう言えば、俺まだ純流さん以外のセカンドの人と会ってないんですけど』

『あぁ、それは唯里君が会おうとしてないからだよ』

『へ?』

『僕は唯里君と会おうと意思を持って話しかけたから会えた、唯里君もそのうち周りのセカンドが見えるようになるよ♪』

『そんなもんですか…』

『そんなもんです♪』

(いちいち爽やかだなこの人)
『見えないだけで周りにはセカンドが溢れてるんですか?』

『そうだね〜、けっこういるかな』

『なんか怖いっすね…』

『君もその一人だよ?』

『いや、まぁ…そっすね…』

『お葬式、最後まで見てく?』

『そうですね…自分とのお別れなんで最後まで見ていこうかと…』

『僕はあまりお勧めしないかな』

『どうしてです?』

『ご遺族の悲しみは唯里君に未練を残す、未練は唯里君を縛り…やがて【ゼロ】になる』

『ゼロ?無になる?』

『いや、便宜上のゼロ、ファースト、セカンドに対するゼロという存在のことさ』

『なんですそれ?』

『ゼロについては僕らもよく解っていない、セカンドにとっての死だと言う人もいれば、消滅と考えてる人もいる』

『なんか怖いっすね…』

『そうだね、ファーストが本能的に死を恐れるように、セカンドもゼロになることを本能的に怖いと思う』

『じゃぁ葬式はこのへんでいいかな』

『うん、そのほうがいいね、ゼロにならなかったとしても…』

『しても?』

『いや…自分の体がこんがり焼かれるのは…ね?』

『見たくないっすね…』

『よし!じゃぁ今日は他のセカンドと会う練習をしようか♪』

『あ、それはぜひやりたいですね』

『うんうん♪基本的にはイメージすることなんだけど…』

純流さんはキョロキョロと辺りを見回している。
何かを探しているようだ。

『いた♪』

純流さんの視線を追ったが、そこには何もない空が広がっているだけだった。

『飛ぼうか唯里君』

『あ、はい』

俺達は空高く舞い上がった。

『唯里君、あそこのアパートのベランダに男の人がいるの見えるかい?』

『いや見えないっす』

『じゃぁ目を閉じて、あそこに人がいるってイメージしてみて』

(イメージ…誰かがいる…男の人だって言ってたな…男がいる…)

『イメージできたら目を開けてもう一度あのベランダを見てごらん?』

『…うおぉぉぅ!!』

『何か見えた?』

『えっと…オッサンがいます…ハゲてて…デブで…全裸の…』

『うん、僕にもそのオッサンが見えてる』

『あの人もセカンド?』

『うん、近藤さんだよ』

『こ…近藤!?え?知り合い?』

『近藤さんは覗きが趣味で、ここいらではよく見かけるよ♪』

(マジか…うちの姉ちゃんも覗かれてたかもだな…キモっ…)

『じゃぁ今度はそこいら中にセカンドがいるってイメージしてみて』

(そこいら中に…人混みみたいなのをイメージすればいいのかな?)

『イメージできたら目を開けて』

(なんか緊張するな)

ゆっくりと目を開けると…
!?
そこには沢山の空飛ぶ人がいた。

『うお…』

『見えたみたいだね』

『けっこういますね…』

『そう言ったでしょ?♪』

『こんなにいるとは…』

(あれ?なんかおかしいな…)
『純流さん』

『うん?』

『セカンドって、みんな現代人なんですか?』

『外見はイメージの産物だからね、カジュアルに見えて実は落武者ってこともあるよ』

『そっか、イメージで変わるんだった』

(ん?と言うことは…)
『今まで死んだ人は全部セカンドとして生きてるんですか?』

『どうだろうね、いつの間にかいなくなった人、ゼロになった人、そして…』

『そして?』

『【サード】になった人…』

『サード!?』

『飽くまでも仮説だけどね、物理法則の外に出たセカンドが、さらに何かを得ることで次の段階に進むと言われてるんだよ』

『それって…』

『神…と捉える人もいるね』

『神って…そんな非科学的な…』

『何言ってるんだい、僕達セカンドもすでに非科学的じゃないか♪』

『…そうっすね…』

しかし、今まで気づかなかっただけで、世の中にはこんなにもセカンドが溢れていたのか。
みんな当たり前のようにそこに存在している。
第二の人生という例えも頷ける。

『あれ?セカンド同士で会話してる人達がいる』

『僕達だって会話してるじゃないか、おかしなことではないよ?』

『そっか、そうですよね』

『僕達や彼らのように、セカンド同士でコミュニティを築いた相手を【ソウルメイト】って僕達は呼んでる、便宜上ね♪』

『便宜上…ですか…しかしまた安直な…』

『複雑にする意味もないだろ?』

『まぁそうですけど…』

『さて、僕はそろそろ行かなければ』

『え?どこにですか?』

『内緒♪“生きていれば”いろいろと用事もあるものさ』

(生きていれば…か)
『そうですね、ありがとうございました』

『うん、じゃぁまたね唯里君♪』

そう言うと純流さんは物凄い高速で飛び去った。

(一瞬で見えなくなった…すげぇなセカンド)

死んだ後に始まる世界。
今でも実感はないが、こうして俺が体験してるのだから疑いようがない。

目の前を飛び交う人々が何よりの証でもある。

(セカンドライフか…とりあえず…ヒマだな…)
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