バレンタイン戦線異常アリ
「洋介! 悪いけどこのゴミ箱教室まで持ってってくれ。俺、春香に予定聞いてくるなー!」
克司は気づかない。
私の顔色になんて全く興味が無いように、ゴミ箱を洋介に託すと走りだした。
廊下の端で、生徒指導の丸山先生とぶつかって怒られてる。
鉄板な克司の間抜け行動にも、私は笑えない。
「和歌、どうした?」
ゴミ箱を持ったまま、洋介は心配そうに私を覗きこんでくる。
「なんでもない」
見ないで。
今の私を見ないでよ。
告白するって決めた矢先に失恋するっていう間の悪さ。
間抜けすぎる。
こんなの誰にも、気づかれたくないんだってば。
「なんでもないって顔じゃねぇだろ」
「うるさいな。放っておいてよ」
心配して引っ張ってくる洋介の手を力任せに振り落とした。
何やってるの私。
こんなの八つ当たりだ。
「おい、和歌」
呼びとめる洋介の声を振り切って走った。
泣くもんか。
学校だもん。なんとかこらえてやる。
喉は痛くて、声も出せないくらい苦しいけど。
絶対に泣いたりなんかするもんか。