バレンタイン戦線異常アリ


「おい」


廊下から声がして、私は顔を上げた。
扉に寄りかかるようにして、洋介が立っている。


「洋介」

「何やってんだ」


洋介は手に持っていたゴミ箱を所定の位置に置くと、返事ができずにいる私の近くまでつかつかと歩いてきた。

そして、手近の椅子に腰かける。

普段は見えない洋介のつむじが見えて、洋介の髪って、随分柔らかそうなんだななんてことを思った。


「どこから見てたの」

「一部始終」

「覗き見とかさいてー」

「なんとでも言え。教室で話してるのが悪いんだよ」


私の毒のある言葉なんか物ともしないで、洋介は軽快に言い放つ。


「……春香とお前、親友なんじゃなかったのかよ」

「そうだよ」

「いいのか? これで」


淡々と問いかけられるから、余計追い詰められてる気がする。


「だって」


体が熱くなってきたのは多分、意地悪な自分が恥ずかしいからだ。

だけど、責められている……と思ったのに、次の瞬間洋介は手のひらを返したように軽い口調になった。


「ま、やるんだったらもっと本気でやれよ」

「は?」


顔を上げて、思わず洋介を二度見する。
意地悪そうな笑顔だ。洋介のこんな顔あんまり見たことがない。


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