バレンタイン戦線異常アリ

「俺も手伝ってやるよ。春香を誘惑してやる。そうしたら克司は振られるだろ。和歌はそこにつけこめばいい」

「……何言ってるの、洋介。春香のこと好きなの?」

「違うよ? でも和歌の為にやってやるよ。なあに、春香みたいな純情な子なら、ちょっと言いくるめればすぐになびくって」

「ふざけないでよ!」


春香はそんなに軽い女じゃないよ。
親友の私のために好きな人が居ても黙ってるような子なんだから。

それに克司だって、もし失恋したからって好きでも無い女の子と付き合うほどお気楽じゃないよ。

いつもバカばっかり言ってるくせに、さっきは心臓がバクバクするくらい真面目な顔して春香への気持ちを語ってた。


「なんだよ。お前に協力してやるって言ってるんだろ。克司が好きなんだろ」

「だからって、そんなこと出来ないよ!」


反射的に洋介に言い返した。
そうしたら、洋介の瞳から意地悪な鋭さがふっと消えて、優しく弧を描いた。


「……だったら、中途半端な意地悪すんな」


ポンと頭に置かれた手が、髪を撫でる。


「でなきゃ春香だけじゃない。自分も傷つけるぞ」


なんなの。なんなのよ。
悪い人ぶって私を騙したね?

涙がこみ上げてくる。
ずっと我慢してたのに、ダムが決壊したかのようにあふれ出てくる。

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