バレンタイン戦線異常アリ
「嫌だよ。自分で買いなよ」
克司が伸ばしてきた手を、私は咄嗟に払う。さも嫌そうに。
でも内心はドキドキだ。
手触っちゃったよ。ラッキー。
「ケチ。いいだろ、よこせよ」
なおも奪い取ろうとする克司の手は、私の腕を掴み、やがてヨーグルトを奪っていく。
腕っ、私今腕を触られてる。
「いただき!」
「ああー、私の!」
言葉はいつも心とは裏腹。
膨れたふりをして見せても、うっかり顔がにやけている気がして、なんとなく手で隠す。
だって克司は、私の好きな人だから。
去年も同じクラスで、たまたま隣の席になった時から気が合って冗談言い合ったり出来る仲になって。
私はいつの間にか、克司に恋をしていた。
二年になってから同じクラスになった、克司と同じ剣道部の洋介とも仲良くなって。
最近では中学からの親友の春香を合わせて、四人で遊びに行ったりするほどになってる。
順調に友達までのステップアップを踏んだ私の次なる目標は、やっぱり告白だ。
今のままも楽しくていいんだけど、もう十七歳だしそろそろ彼氏とか欲しいし。
「うめぇ」
克司がスプーンを加えた。これって間接キスだよね。
そのスプーンが今度は私の方に戻ってきたら、ああーん、どうしよう。
ダブル間接キス!!
これってもうちゅーしちゃってるのと一緒じゃないの!
興奮が顔に出てしまいそうで、私はひざのお肉をスカートの上からぎゅっとつねった。