バレンタイン戦線異常アリ
「ほら、ブサイク」
意地悪な言葉と一緒に、洋介がハンカチを差し出す。
「一言余計だし」
本当はありがとうって言いたかったのに、そんなこと言われたら素直に言えないじゃないか。
もらったハンカチで涙を拭いて、ついでに鼻もかんでやった。
「おまえっ」
睨みつけてくる洋介をみて、私は笑い出した。
ああ、ようやく笑えたな。
最悪の一日だった。
告白する前から失恋して、親友との仲までぎくしゃくして。
「……取り戻すのが大変だ」
「あ?」
「ううん。なんでもない。……ごめんね、洋介。私、帰るね」
「……一人で大丈夫か?」
「平気」
「じゃあ、俺は部活に行く」
洋介は、鼻水のついたハンカチを奪い返して教室を出ていく。
今日は剣道部がある日か。今から行っても遅刻じゃん。
なんか悪いことしちゃった。
でも、人の優しさってお薬みたいな効果があるんだな。
トゲトゲだった気持ちが、少しだけ楽になった気がする。