やっぱり君が可愛すぎて
電話を終えた彼は、携帯をテーブルに放ると、何事もなかったかのように、先ほど同様テレビを観始める。
面白いのかつまらないのか全く推測出来ない例の笑顔を浮かべて。
「なんや、途中から観てもわからんなァ」
ならお風呂行かなきゃよかったじゃん。
そんなツッコミは、心にしまった。
今は彼と話す気分じゃない。
胸の奥で広がったもやもやが喉の奥でつっかえているみたいで、息苦しい。
「あ、ボクこの漫才師好きやねん。でも名前忘れてもた。なんていうんやったかなァ……」
「……」
「なァ、君知ってる?」
「……」
「なァ」
「……」
「なんで無視するの」
前屈みになってわたしの顔を覗き込んできたものだから、お風呂上がりで濡れたままの彼の髪から、ぽた、と雫が滑り落ちてきた。
……冷たい。
「どないした?」
彼の顔をじっと見上げた。
色素の薄い瞳と、長い睫毛。男の人とは思えないほど白く透き通った肌。作り物みたいに綺麗に整った目鼻立ち。お風呂上がりのせいもあって、むせ返りそうなほど色っぽい。
改めて見ると、これはもはや凶器だと思った。
こんなものに見つめられたら、一瞬で心を射殺されてしまう。
今まで一体何人の女の子が、この目に殺られてきたんだろう。
そう考えたら、またズキリと胸が痛んだ。
思わずうっとりと見惚れていた自分にハッとして、慌てて彼から顔を背ける。
「水落ちてきて冷たい。ちゃんと髪乾かしてきなよ」
「……」
そう素っ気なく言い放った言葉に全く応答がなくて、恐る恐る彼の方に顔を向けたら、彼は口角をきゅっ、と吊り上げて、わたしの苦手な不気味な笑顔を携えていた。