残業しないで帰りなさい!

よく見ると、課長のワイシャツのあちこちに赤く血が染みている。

もしかして、私の血?

どうしよう、すごい汚しちゃった。

「ごめんなさい、課長のワイシャツ……」
「そんなのいいんだ」

課長は心配そうな瞳のまま、被せるように言うと、今にも泣きそうな顔をして目を閉じた。

「……良かった、目が覚めなかったらどうしようかと思った」

課長が泣きそうな顔をしてる……。驚いて目を見張った。

……そんな顔、しないで。

ものすごく胸が痛い。

なぜか、あっという間に涙が湧いて、目の縁からぽろっとこぼれ落ちた。

課長が泣きそうな顔なんてするから……。
なんかなんか、胸を強く打たれてしまった。

私の涙に気がついて、課長はそっと指で拭った。

「大丈夫?」

「……はい」

一度深呼吸をしたら、少し冷静になってきた。

ここ、応接室だ。

「救急車、呼ぼうかと思ったんだけど大丈夫かな?頭を打ったりしてない?気持ち悪かったりしない?」

そう言われてハッとした。救急車なんて、そんな大ごとじゃない。

「そんな、救急車なんて、いいです。全然大丈夫です」

そう言って起き上ろうとしたら、肩を押さえられて戻された。

「まだ起きないで。しばらく横になってた方がいいよ」

「……はあ」

えっと。

ここは応接室で、私はソファーに横になっているみたい。

どうしてこうなったんだっけ?
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