残業しないで帰りなさい!

「私、どうしちゃったんでしょうか……?」

「覚えてない?倒れたんだよ、この部屋を片付けてる時」

倒れた?

……あ。

んー?

そっか。

思い出してきた。

茶色いくせ毛の人……。

そうだ、近付いてきて顔とか触られたんだ。

それで倒れたんだっけ。

でも……、いくらなんでもちょっと触られたくらいで倒れるなんて。

こんなの初めてだ。

あんな風に、男の人に触られたことがなかったからかもしれないけど。

それにしたって、倒れるなんて。

自分でもびっくりだ。

考えてみたら、あの茶色いくせ毛の人、大事な商談相手だったんじゃないのかな。重役だって言ってたし。

どうしよう……。私が倒れたりしたから、商談がダメになったなんてこと、ないかな。

「……あの」

「うん?」

「あの方、取引先の重役の方なんですよね?その……、私が倒れたりして、気分を害されてないでしょうか?そのせいで商談がうまくいかないなんてことになったら……」

課長は少し不機嫌な顔をした。

「いいんだよ、君が気にすることじゃない」

「でも……」

そう言われても、気になるなあ。

「何か変なことされたんじゃないの?触られてるようにも見えたけど」

「えっ?いえ、変なことって言うか。えっと……、顔とか首をちょっと触られて……」

そう言うと、課長は明らかに怒った顔をした。
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