残業しないで帰りなさい!

「いいんだよ、気にしないで」

そう言って立ち上がった課長を見ると、ワイシャツが予想以上に血まみれでちょっと驚いた。すぐにでも着替えた方がよさそう。

「そのワイシャツ……」

「ん?ああ、どっかに予備があったと思うから平気だよ」

課長は笑ってそう言ってくれたけど、やっぱり申し訳ない。勇気をふり絞って言った。

「そのワイシャツ、ダメにしちゃったので私、弁償します」

「そんなあ、いいよ。むしろこのシャツ、記念にとっておこうかなあ」

自分のワイシャツをつまんで眺める課長に、白石さんと沢口さんが目を細めた。

「キモッ」
「変態?」

「あ、いや……今のは、ナシね」

課長は肩をすくめて小さくなった。

記念?何の記念?変な冗談言うなあ。私が弁償するなんて言ったから、きっと気を遣ってくれたんだろうけど。

ふと見たら私の制服のベストにも血が付いてしまっていた。……洗ったら取れるかな?

その後、課長から高野係長に話をしてくれて、私は病院に行き、午後はそのまま家で休むように言われた。

別れ際、課長は血まみれのままにっこり笑って「気を付けてね」と言った。
その姿を見たら、急に課長に恋をしていることを思い出して、ドキッとした。

恋していることを忘れていたわけじゃなかったけど、なぜかとても自然な感じでそばにいてしまった。

ドキドキし過ぎて非常階段にも行けなかったのに……不思議。

病院に行ったら、そんなに酷い傷だとは思わなかったのに5針も縫われてしまった。よく動かす部分だからかな?

一応お医者さんに倒れたことを話したら「まあ貧血だろうね」と言われた。本当は貧血ってわけではないと思うけど、まあ、いいや。
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