残業しないで帰りなさい!
昨日は病院でグルグルに包帯を巻かれてしまったけれど、大げさなのが恥ずかしくて控えめに包帯を巻いて出勤した。
少し動かしづらいけど、薬を飲んでいるせいか痛みはない。
「青山さん、手、動かして大丈夫?」
白石さんが聞いてきた。
「はい、大丈夫です!」
私たちは今、会議室でサンプルを組む作業を急ピッチでやっている。
「無理しないでくださいね」
沢口さんも心配そうに言った。
「本当に思いのほか大丈夫なんですよ」
私はブンブン手を動かして見せた。
「手もそうですけど、青山さんは昨日倒れたんですからね!貧血だなんて、ちゃんと食べてないんでしょう?」
……怒られてしまった。食生活はキチンとしてる方なんだけどなあ。
「それにしても、急に千個もサンプルが足りなくなるなんて、おかしいよねー」
「絶対に営業さんが目算誤ったんですよ」
沢口さんのその読みはきっと正しいと思う。
見本市で使うサンプルが足りない、と朝いきなり峰岸さんが言ってきたのだ。だから、私たち三人は朝からずっと会議室に缶詰めになってサンプル工場をやっている。
本当は、昨日の午後できなかった分の伝票処理をやりたかったのに……。
まあ、手を動かしつつ、口も動かしてるから楽しいんだけど。