残業しないで帰りなさい!
「で、一直線って何なんですか?」
私が聞くと、白石さんと沢口さんは顔を見合わせた。
「だからさ、藤崎課長、青山さんが倒れた途端一直線に駆け寄って、何度も『青山さんっ!』って叫んで、もうずっとそばから離れなかったんだよー」
「え?」
なにそれ?ちょっと、ドキドキしちゃうな……。
「周りが全然見えてなかったですよね」
「うん、そんな感じ」
「それにあの課長さん、私たちに指示を出した後は青山さんのそばにくっついてるだけで、何の役にも立ちませんでしたしね」
「あはは、ホントにそう!見た目はカッコイイ王子様なのに、かなり残念だよねー」
「『きっと貧血だからすぐに起きますよ』って何度言っても『どうしよう、もう2分も目が覚めないよ』とか『このまま目が覚めなかったらどうしよう』とかオロオロしてうるさいし、掃除するのに体の位置が邪魔だって言ってるのに青山さんのそばから離れようとしないし、はっきり言ってウザかったです」
「??」
なんか課長、ひどい言われよう……。
でも、課長がそばにいたのは止血するためだったのでは?
「きっと課長、そばにいて切れたところを押さえて止血してくれてたんですよ」
「えぇー?」
「エェー」
白石さんも沢口さんも鼻にシワを寄せて半目になった。……お二人ともその目、怖いですよ?
「だからってなにも握らなくても、ねえ?」
「そうですよ!もう血は止まってましたよ」
……そうなの?
「藤崎課長があんまり青山さんにくっついてるから、私たち、てっきり二人は付き合ってるのかなーって思ったんだけど」
「エッ!?ち、違いますっ!」
そんな、大きな勘違いです!ブンブン頭を振って否定する。