残業しないで帰りなさい!
「そうですよね、青山さんの意識が戻った後の会話って付き合ってるって雰囲気じゃありませんでしたもん」
「……はあ」
もしかして沢口さん、お掃除しながらずっと私たちのこと見てたのかな?
私がチラッと見ると、沢口さんはニヤッと笑って興奮したように身を乗り出した。
「それよりっ!あのお姫様抱っこですよ!」
「いやーん!そうそう!あれはヤバいよねー」
「え?」
お姫様抱っこ?
「なんですか、それ?」
「あの課長さん、青山さんのことお姫様抱っこしたんですよ!」
「そーそー、ソファーに寝かせる時ね」
「エーッ!?」
この私をお姫様抱っこ!?
でかい私はお姫様抱っことは一生無縁だと思っていたんだけど……。課長は出来ちゃうんだ、私のことをお姫様抱っこ。
そんなもう二度とない稀少な出来事を覚えていないなんて……残念だ。
「すっごく大事そうに抱き上げてさ、本物の王子様みたいだったよー。あれはさすがにキュンとしちゃったなー」
ええっ?そうなの?……ドキドキしちゃうなあ。
「でも、私としては『どっこいしょ』は言ってほしくなかったですね」
「ああ、王子とはいえ年だからね、しょうがないんじゃない?」
それを聞いて思わずフフッと笑ってしまった。『どっこいしょ』なんて、課長なら絶対に言いそう。似合ってる。
そういうところも、好きだなあ。
ああ、でも。
課長が私をお姫様抱っこしたなんて。想像しただけで、すっごいドキドキする。
だってだって、抱き上げられたってことでしょう?あの腕の中に……?
……ドキドキして心臓も頭も破裂しそう。きっと私、顔が真っ赤だ。