残業しないで帰りなさい!

沢口さんは急に真面目な顔になって人差し指をビシッと立てた。

「ただ、あの課長さん、血の付いたワイシャツを記念に取っておこうなんて、好きな女の子のリコーダーを隠れて舐めるタイプですよ。気を付けてください」

「エエッ!?」

課長にそんなイメージはないけど。それに、何をどう気を付けろと言うのですか……?

「でもさ、あの感じだと藤崎課長ってけっこうストレートなタイプなんじゃない?」

「いや!今回は夢中になりすぎて周りが見えなくなってるんですよ!イケメンだから需要が高くて、今までは余裕だったのかもしれませんけど、今回ばかりは恋に翻弄されちゃってるんじゃないんですか?」

「おー、なるほどねー」

目を細めて熱心に語る沢口さん。まるでこれまでの課長の恋を全て知っているかのような言いっぷりですが……。

何を勝手に想像しちゃってるんですか!妄想ですか?暴走していませんか?

「今はお互いにお互いを好きってわかっているような、でも自信が持てないような、微妙な感じの二人」

急にお二人は舞台女優みたいな身振り手振りをし始めた。

「あんなに綺麗な人と付き合ってたカッコイイ課長が私のことなんか好きになるわけがないって思う青山さん」

「青山さんのことを好きなのに、臆病になって一歩を踏み出せない課長」

「なかなかくっつかない二人!」

「キャアーッ!」

「やっぱ、いいねっ!いいねー!」

勝手に異様な盛り上がりを見せるお二人。

なんかなんか、楽しそうですね……。

でも、そうなのかな?
私たちの現状ってそういう感じなの?

本当にそんな風に思っちゃっていいんだろうか。課長も私のことを好き、だなんて。

瑞穂もそう言ってくれたけど。

ああ、でもそんなっ!やっぱり違うよ!
< 137 / 337 >

この作品をシェア

pagetop