残業しないで帰りなさい!
あんな課長みたいな王子様が私なんかを好きになるわけがない。あんな綺麗な人を好きだった人が、私なんかを見るわけがないもの。
私がシュンと落ち込むと、二人は揃ってニヤニヤと私を覗き込んだ。
「私たち、遠くで応援してるからさっ」
「青山さんの恋の行方、見守ってますよ」
「……えーっと」
応援してるとか見守ってるとか、困ります。プレッシャー感じます。それに、お二人とも興味津々で楽しんでいらっしゃいますよね?
そういえば、私はまだ課長が好きなんて一言も言ってないけど……。
そんなの最初からバレてたのかな?お二人には恋愛初心者の心なんて、バレバレだよね……。
お喋りが盛り上がって、すっかりサンプル工場を放棄していた私たちは、そろそろやらないとヤバいね、とその後黙々と作業に戻った。
結局作業はタイムリミットの1時までかかってしまい、終業時間になってしまった沢口さんは、お菓子はその場では食べずに「帰ってからのお楽しみにします」と言って持って帰った。
一緒に美味しくいただきたかったのに、残念。まあ、途中であんなに喋っちゃったから、仕方がない。沢口さんはお子さんのお迎えの時間があるから、終業時間は絶対なのだ。
そして、出来上がったばかりのサンプルを峰岸さんは大急ぎで見本市の会場に運んで行った。
ふうっ!
とりあえず、間に合って良かった。