残業しないで帰りなさい!
結局私は『木苺のパフェ』を頼んでもらった。本当は、この間ここに来てメニューを見た時からずっと気になってたパフェ。
私はそんなに見ていたつもりはなかったけれど、課長は私がデザートを見ていたことにこの間から気がついていた。
そんなに熱心に見てたかな?
だって、美味しそうだったんだもん。
目の前にやって来たパフェは、こじんまりしたサイズで食べやすそうだった。
でも、課長がじっと見てるから食べにくいなあ。
おずおずと、一番上のアイスにスプーンを入れる。
ラズベリーとバニラが二層になったアイスをパクッと口に入れたら、甘酸っぱい香りが口の中に広がって、あまりの美味しさに思わず顔がふにゃっとゆるんでしまった。
その瞬間、課長の前で甘い物を食べてにやけている自分がすごく女の子に思えて、みるみるうちに涙が目の中で膨らんで、こぼれ落ちた。
こんな簡単に涙が出てくるなんて、私の涙腺はもう壊れてしまったみたいです。
また息を飲んで困った顔をする課長。
「泣いてるの?笑ってるの?」
泣いてるのに笑ってる。
自分でもどっちかわからない。
私、ちょっとおかしくなってる。
ううん、違う。
私、嬉しいんです。
課長の前で素直に女の子でいられることが嬉しくて涙が出てくるんです。
でも、やっぱりそんなことは言えなくて、鼻をすすりながら、またアイスを口に運んだ。
「……美味しいです」
「そう?……良かった」
課長は困り顔のまま微笑んだ。