残業しないで帰りなさい!

『やっぱ、私の言った通りだったね!』

「え?」

『あと残ってる台詞なんて「君のことが好き」くらいしかないって』

「あ……」

そうだった。そんなこと、言われたんでした。思い出したらドキドキしてきた。

君のことが好きなんだ、なんて……。

『彼、案外ストレートなタイプなのかもね。思ったことはまっすぐ伝えたいタイプ』

「……うん」

そうかもしれない。すぐ顔に出るし。

『香奈も彼のこと好きなんでしょ?だったら普通に付き合えばいいじゃん。香奈がなんで迷ってんのか、全然わかんない』

「迷ってるんじゃなくて、……どうしたらいいのかわからないの」

『どうしたらって何を?』

「どう伝えたらいいのか、わからない」

『伝えるって何を?』

「私の気持ち」

『好きだってこと?』

「……うん」

『は?言えばいいじゃん、普通に「好きです」って』

さっきから普通に普通にって言うけど、普通って何?

「普通に言えないから困ってるの!」

『なんでよ?だって、向こうも香奈のこと好きなんだよ?フラれるリスクもないなんて、何も問題ないじゃん』

「だって……、私なんかにそんなこと、言えないよ……」

『私なんかに、ねえ』

瑞穂が電話の向こうでため息をついたのが聞こえた。
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