残業しないで帰りなさい!
自分に自信は持てないけど、私が課長を好きだなんておこがましいけど。でも、課長のそばにいたい。あの人のそばにいたい。
「……うん、そだね。うん、……私、がんばって、みようかな」
『おっ!その気になった?良かった!がんばって!なんか、初々しくっていいなあ。そんな純心真っ白なの、私には遠い昔の話だよ。昨日も元彼のバーに行っちゃったし』
「……」
瑞穂はすごくいい友達だけど、恋愛に関してはちょっと理解できないところがある。彼氏がいるのに、元彼が働いているバーにわざわざ一人で行ったりして。
「どうして会いに行くの?」
『ん?そうだねえ……。会ったところで元彼とは何もないんだけど、だからこそ不必要に接近するとドキドキするんだよ。ちょっと後悔してみたりして。そんでもって、元彼の作ったお酒を飲んでから彼に会いに行く、そういう刺激が時々必要なんだよね』
「へー……、ふーん」
『恋愛初心者の香奈君には、わからないだろうなあ』
「うん、そだね。サッパリわかんない」
恋愛初心者レベル1に、恋愛上級者レベル90の考えてることなんてわかりません。
そんな恋愛上級者と「明日彼に返事をする」と約束して電話を切った。
後ろにも斜めにも進めない、前に一歩しか進めない恋愛初心者な私。投げられる球もまっすぐだけです。
それってどうなの?
だいたい、なんて言ってお返事するの?
ああ、瑞穂に聞いておけばよかった!
……瑞穂。やっぱり私、無理っぽいです。