残業しないで帰りなさい!
「青山さーん、上の段の資料取ってもらってもいい?」
「はーい」
高い所にある物は、だいたい私が取ることになっている。
青山香奈、24歳。身長169センチ。
教材メーカーに就職して早2年。
配属されたのは横浜支社の営業課支援係。1年目は諸先輩方の叱咤激励を受けながら付いていくのがやっとだったけれど、2年目になった今、ようやく一人で仕事をこなせるようになったと思う。
私は背が高くて力もあるから、何かを取ったり運んだりする時はいつもみんなに重宝される。
頼まれて高い位置にある物を取ったり、重たい荷物を持つことは、正直全然苦ではない。
私なんて背が高くて馬鹿力なくらいしか取り柄がないもの。そのくらいでお役に立てるなら、お安いものです。
ショートカットでろくに化粧もしない私。
本当はスカートも履きたくないけど、会社の制服だから仕方なくスカートを履いて仕事をしている。
ピンクのチェック柄の制服なんて、似合わないんだけどなあ。
そんな私にいつも「少しは女の子らしくお化粧しなさい!」って怒る北見さんは、明日から産休に入ってしまう。
おめでたいことなんだけど、頼りにしてたし、育児休業も含めたら1年くらいお休みになってしまうから、本当はとても寂しい。
「北見さん、残りの荷物はこれだけですか?」
「うん、これで終わりかなっ」
「じゃあ持ちますよ」
「ありがとー」
にっこり笑った北見さん。とっても幸せそう。