残業しないで帰りなさい!
『まあ、だとしてもさ、あんまり構えなくてもいいんじゃない?彼はそのくらい考えてるのかもしれないなーって、薄っすらわかってれば。どうせ香奈、よくわかってないでしょ?』
「うん……。付き合うも別れるも結婚も何もかも、何一つイメージできないかも」
本当に全然イメージできない。課長のこと、彼って言われてもいまだに実感わかないし。
『何一つってこたあないでしょ?アンタね、既に付き合ってるんだよ?』
「それは、そうなんだけどさ。まさか、男の人とお付き合いすることになるなんて、考えてもいなかったから……」
『ふーん……。じゃあ香奈、今度のデートで何するつもりなの?』
「何する?どこかに連れて行ってもらって、いろいろお話しするんじゃないの?」
電話の向こうでため息が聞こえた。
最近私と話す時、瑞穂よくため息つくなあ。
『あのねえ、香奈。アンタが超奥手なことはわかってるけどさ、少しは覚悟して行きなさい』
「覚悟?」
『わかってると思うけど、相手は男の人なんだよ?もうそれだけベタベタしてるんなら、間違いなく手は繋ぐよねえ』
「……」
手を繋ぐ……?
ふと課長との握手を思い出した。あの大きな手に包まれた感触。またあの手に包まれたいな、なんて思う自分にドキドキする。