残業しないで帰りなさい!

「思い出すきっかけになったら嫌だから、俺もシトラスのコロンは絶対に使わないよ」

翔太くんが急にそんなことを言い出した。翔太くん、コロンなんて使うの?

「翔太くん、もともと何も付けてないよね?変な匂いしないもん」

鼻を近付けてふんふんと匂いを嗅いだけど、やっぱりボディーソープの匂いしかしない。
でも、匂いを嗅ぐ私の動きに翔太くんはビクッとした。

「あっ……!なんかそれ、ダメ」

「なんで?」

「だって……、臭いなんて言われたら、もう立ち直れないから」

えー?何言ってるの?そんなことないのに。

もう一度近付いて嗅いでみた。何も匂いなんてしないよ?
私の動きを避けるように悶える翔太くん。

「あっ!だからダメだって!」

「どうして?全然匂いなんてしないよ?」

「……くすぐったいから、ダメ」

「ふーん」

翔太くんはくすぐったがりなのかな?
さっきまではそんな感じしなかったけどなあ。もっと匂いを嗅ぎたかったのに残念。

そんなことを思って抱き締められるまま胸に頭を預けていたら、温かくてウトウトしてきて、私はいつの間にか寝てしまった。
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