残業しないで帰りなさい!
それから、私は金曜日の夜から日曜日までを翔太くんの家で過ごすようなった。
私にとって普段は『翔太くん』だけど、会社ではやっぱり『藤崎課長』なわけで、会社で遠くから見かけると未だにドキドキしてしまう。
人には残業するな、なんて見回りをしているくせに、翔太くんは忙しくてよく残業している。まあ、見回り自体が残業なんだよね。
ちなみに早期退職勧告リストは、いちおう作ることにはなっているけれど、作ってるって噂を流して反応を確認しているんだとか。
それでもやる気がないヤツは丁寧に話を聞かないとね、なんて人事課長らしいことを言っていた。
平日は一緒に帰ることもあるけれど、翔太くんはいつも忙しくてあまり一緒には過ごせない。だから、週末はできるだけたくさんの時間を一緒に過ごしている。
そんな生活で、私はいろんな幸せを知った。
翔太くんの家に私の物が少しずつ増えていく幸せ。
運転する翔太くんを見ながら助手席に乗ってお出かけする幸せ。
映画や景色を一緒に見て感動を共有する幸せ。
空気の澄んだ冬の日の朝、あの非常階段から綺麗な富士山を見せてもらったのも幸せだった。
青い空の下、くっきりと見える白い富士山はとても綺麗で不思議で、翔太くんと一緒に見られたことが本当に嬉しかった。
もちろん作ったご飯を美味しそうに食べてもらうのも幸せ。
翔太くんは何を作っても美味しそうに食べてくれるから、とっても作り甲斐がある。
やっぱり親子丼とか、卵料理を食べたがるから作ってあげるけど、肉じゃがとかサバの味噌煮なんかの和食も喜んで食べてくれるから、少しずつこっそり和食中心に移行している。
今までの不健康な食生活、少しは改善されたかな?
そして、初めてオムライスを作ってあげてから一か月が過ぎた。
相変わらず翔太くんは私を抱き締めて眠るけれど、ただそれだけ。
そう、まだ私たちはキス以上はしていない。