残業しないで帰りなさい!
でも、痛い思いはさせたくない、なんてことを言っていたら、いつまでたってもこのままなのです。
だからつい、思ったことをそのまま言ってしまった。
「なんか、初めてだけは他の人としてほしいみたい」
その言葉を聞いた途端、翔太くんはガバッと身を起こした。
見上げた翔太くんは、これ以上大きくできないだろうっていうくらい大きな目をしていた。
「ダメ!絶対ダメ!」
珍しく大きな声。
そんなこと、するわけないのに。
「そんなことしないよ?」
翔太くんは首をブンブン振った。
「ダメ!香奈ちゃんに他の男が触れるなんて、絶対に許さない。考えただけで頭がおかしくなる!だから……今すぐ君をいただく」
翔太くんは一瞬、今まで見たことのない、獲物を狙う獣みたいな瞳をした。
「!」
何かを言う前に、激しいキスで口をふさがれてしまった。
いつもと全然違うキス。今までのもすごい大人のキスだと思ってたけど、もっとすごい。
思わず声が漏れてしまう。こんなキス、とてもついていけない。
まさかあの一言が、ここまで翔太くんに火をつけてしまうとは思わなかった。
首筋に唇を感じて体重がのしかかる。息があがって鼓動が早鐘のよう。
でも、翔太くんは唇を離して少し起き上ると、心配そうに私をじっと見つめた。もう獣の瞳はやめたの?
「……今日はしても平気?」
平気ってどういう意味での平気なのか、うまく働かない頭ではよくわからなかったけど、私が小さくうなずくと、翔太くんは苦しげでとてもせつない瞳をした。
「君のことを大事にする。大事に抱く。でも、痛かったらごめんね。本当にごめん」
私、十分すぎるほど大事にされている。あなたが私を大事にしてくれているのは知っている。だから、ごめんねなんて思わないで。
さっきはあんなに衝動的に動いたくせにこんなことを言うなんて、あなたはやっぱり優しい人です。
その後の翔太くんは、もちろん不能ではなく、超ドへたれでもなく、その動きには何の淀みもなくて、私の様子を見ながらとてもとても大事にしてくれた。
肌を滑るその手の感触を、重なる肌の触感を、あなたの吐息をもっと観察したかったけれど、そんな余裕は全然なくて、翻弄される自分にただひたすら戸惑って、そのうち戸惑うことさえ諦めて、最終的には夢中になって、私はあなたに溺れてしまった。