残業しないで帰りなさい!
翔太くんとお付き合いを始めてからしばらく経って、春が来て4月になった。
翔太くんは人事異動で東京本社の営業課に戻ることになった。でも、翔太くんは引っ越さずにそのまま横浜から出勤している。
やっぱり営業さんってとても忙しいみたい。
今までは金曜日から日曜日まで一緒にいられたけれど、異動してからは金曜日の夜はお付き合いで飲みに行ったり、土曜日もお仕事が入ることが多い。当然会社でも顔は見られないし。
だから、4月に入ってからほとんど会えていない。
……とても寂しい。
ちょっと会えないくらいで寂しくなって距離を感じてしまうなんて、わがままなのかな?
そんなわけで瑞穂に電話してしまった。
『なあに?またのろけ?』
「違うよう」
『珍しいじゃん。どうしたの?』
「最近ね、異動しちゃってあんまり会えないから寂しいなあ、なんて……」
『やっぱりのろけじゃん!彼に会えなくて寂しいよう、なんてさ』
「ちょっと会えないくらいで距離ができちゃったなんて思うの、わがままかな?」
『そんなことないんじゃない?会うのがめんどくさくなるよりはいいよ』
会うのがめんどくさい?それはないなあ。絶対にない。
会えるなら今すぐ飛んでいきたい。
「瑞穂、めんどくさくなるの?」
『なるなる、よくなる!』
「ふーん、私は今すぐにでも会いたいけどなあ」
『へー?仲がよろしいことで!それなら普通に会いに行けばいいじゃん』
「……普通に、ねえ」
『うん。それか、何も言わずに突然行ってみるとか!サプライズ!喜ぶんじゃない?』
「そうかな……」
『そうだよ!』
そんな瑞穂に背中を押されて、私は翔太くんの家を訪ねてみることにした。