残業しないで帰りなさい!
金曜日。
特に何も連絡は入っていないから、たぶん今日は飲み会じゃないと思う。
連絡もしないで翔太くんの家に行くなんて、実は初めて。
翔太くんには、いつ来てもいいよって言われている。俺がいなくても来ていいんだからねって合鍵も渡されたけれど、もらった合鍵を使ったことは一度もない。
だって、翔太くんがいない家に行くのは寂しいし、やっぱり勝手に家に入るなんて気が引けてしまうもの。
でも、今日は翔太くんがいなくても家で待っていようと思った。
翔太くんが帰ってきたら、大好きなオムライスを作ってあげる。もし夕食を食べてきちゃってたら、明日の朝作ってあげる。
突然私がいたら、驚くかな?
……喜んでくれるかな?
こんなのやっぱりドキドキするなあ。
スーパーでお買い物をして、翔太くんの家に向かった。今日はちゃんとチキンライスを作ってあげるんだ。
マンションに着いて、エレベーターで3階に上がる。もうすっかり歩き慣れたマンションの廊下。
何も考えなくても翔太くんの家まで行ける。
でも、玄関の前に立ってちょっと考えた。いきなり鍵を開けないで、インターホンを押した方がいいかな?
いるかもしれないし。
そういえば、インターホン越しに翔太くんの声って聞いたことないなあ。どんな声なんだろ。ちょっとワクワクする。
初めて押すインターホンのボタンにドキドキしながら、ピッとボタンを押した。
ピンポーンッ。
……。
返事はない。
やっぱりまだ帰ってないみたい。この時間ならそうかもね。
そう思った時、扉の向こうでバタバタと音が聞こえた。
あれ?いる?
もしかして翔太くんって、インターホンに出ない人なのかな?
でも次の瞬間。
「はーい」
玄関の扉の向こうから聞こえてきたのは、若い女の人の声だった。