残業しないで帰りなさい!

「香奈ちゃんは勘違いをしてる。さっきの子は俺の部下で、他の部下も今うちに来てるんだ」

「?」

どういうこと?
ちょっと、意味がわからない。

「ちゃんと目を見て」

真面目な声でそう言われても、翔太くんの顔を見ることなんてできない。
目を閉じて首を振ったら、両手で顔を挟まれて上を向けられた。

「俺を信じて」

恐る恐るそーっと薄目を開けると、翔太くんの真剣な瞳が見えた。

そんな真剣な瞳……。
私だって信じたい!
信じたいよ?

「香奈ちゃんは思い込みが激しい人です」

眉をひそめる。
急になんですか?
それは知っていますけど……。

でも、女の人がいたじゃん!
私、目の前ではっきり見たもん!
可愛い女の人。

……ん?
他の部下も来てる?

えっと。
えーっと。

どういうこと?
首を傾げる。

「急に本部長が俺んちに行こうって言い出してね、流れで課の連中もくっついて来ちゃったんだ。で、本部長が寿司とろうぜ!とか言い出して、インターホンが鳴ったから、さっきの子は寿司屋が来たと思って玄関に出たわけ。ここまでの話、わかった?」

……うん。

ちょっと理解し始めた。
いや、かなり理解し始めた。

あの可愛い人は翔太くんの部下で、他の部下も家に来ていて、私が鳴らしたインターホンは宅配寿司が来たと思ってあの可愛い人は玄関に出てきた、と。
そういうこと?

目を大きく開けてその優しい瞳をじっと見つめる。

「わかってくれた?」

……私、久しぶりにやっちゃいました?
大きな勘違い、しちゃいました?

恥ずかしくて申し訳なくて、耳が熱くなるのを感じながら、私はおずおずと小さくうなずいた。
< 319 / 337 >

この作品をシェア

pagetop