残業しないで帰りなさい!
「香奈ちゃんは勘違いをしてる。さっきの子は俺の部下で、他の部下も今うちに来てるんだ」
「?」
どういうこと?
ちょっと、意味がわからない。
「ちゃんと目を見て」
真面目な声でそう言われても、翔太くんの顔を見ることなんてできない。
目を閉じて首を振ったら、両手で顔を挟まれて上を向けられた。
「俺を信じて」
恐る恐るそーっと薄目を開けると、翔太くんの真剣な瞳が見えた。
そんな真剣な瞳……。
私だって信じたい!
信じたいよ?
「香奈ちゃんは思い込みが激しい人です」
眉をひそめる。
急になんですか?
それは知っていますけど……。
でも、女の人がいたじゃん!
私、目の前ではっきり見たもん!
可愛い女の人。
……ん?
他の部下も来てる?
えっと。
えーっと。
どういうこと?
首を傾げる。
「急に本部長が俺んちに行こうって言い出してね、流れで課の連中もくっついて来ちゃったんだ。で、本部長が寿司とろうぜ!とか言い出して、インターホンが鳴ったから、さっきの子は寿司屋が来たと思って玄関に出たわけ。ここまでの話、わかった?」
……うん。
ちょっと理解し始めた。
いや、かなり理解し始めた。
あの可愛い人は翔太くんの部下で、他の部下も家に来ていて、私が鳴らしたインターホンは宅配寿司が来たと思ってあの可愛い人は玄関に出てきた、と。
そういうこと?
目を大きく開けてその優しい瞳をじっと見つめる。
「わかってくれた?」
……私、久しぶりにやっちゃいました?
大きな勘違い、しちゃいました?
恥ずかしくて申し訳なくて、耳が熱くなるのを感じながら、私はおずおずと小さくうなずいた。