残業しないで帰りなさい!

翔太くんは黙って慎重にトレーから指輪を取り出した。指輪を持つ翔太くんの指がいつもより不思議と長く見える。

私の左手を持ち上げたから、私も震える指を伸ばしてみた。
薬指にスウッと指輪を通すその仕草、ドキドキします。

指輪がきれいに入った瞬間、胸がキュンと痺れた。
ちゃんと入った……。しかもピッタリ!
私は手がでかいから絶対に入らないって思ってたんだけど、良かった。

まじまじと見つめる。
なんかなんか、キラキラしすぎて違和感あります。

翔太くんが微笑みかけた。

「ちょうどいい?」

「う、うん」

「……気に入らない?」

「そんなわけない!素敵すぎて圧倒されているのです」

「そっか。よかった」

その美しい指輪をじっと見ていたら、知らないところで翔太くんが私のことをいろいろと考えてくれていたことがじわじわと嬉しくなって、涙がわいてきた。

「……ありがとね、翔太くん」

そう言ったらぽろっと涙が落ちた。

ありがとう、翔太くん。

指輪も嬉しいけれど、それより翔太くんが私と同じように一緒にいたいって思っていてくれたことが本当に嬉しかった。

翔太くんのそばにいられることが、何より私は嬉しいのです。

それからちょっと冷静になって、お店で指輪をはめてもらって泣くなんて、恥ずかしいことをしたと反省した。

翔太くんと一緒にいるとすぐ泣くところ、どうにかしないといけないなあ。

翌週、指輪をはめて出勤したら、案の定すぐ白石さんと沢口さんに見つかってしまい、また質問攻めにされてしまった。

でも、それはそれでとても楽しい時間。たとえお二人が興味津々で楽しんでいるとしても、応援してもらえることが嬉しいのです。
< 327 / 337 >

この作品をシェア

pagetop