残業しないで帰りなさい!

それからしばらくして、私たちは優香さんと和彦さんの所へ挨拶に行くことになった。

遊馬さんの所へ挨拶に行って、お父さんとお母さんのお墓参りをして、翔太くんにそっくりなお父さんに会いに行って、結局、優香さんたちへの挨拶は最後になってしまった。

優香さんは「別に本当の母親じゃないんだから、挨拶なんてしなくていいわよ」と身も蓋もないことを言っていたけれど「紹介したいんです!」と半ば強引に行くことにした。
心愛ちゃんにも会いたいし。

それに、翔太くんもなぜか優香さんに会いたがった。どんな人なのか会ってみたいって。

いつもお盆とお正月にはみんなの顔を見に遊びに来ているけれど、それ以外でこの家に来るのは久しぶり。

心愛ちゃんは会うたびに大きくなっていく。

今日も行った途端に「カナちゃん見て見て!」と言って可愛く見えるポーズをしてくれたり、宝物のお人形を見せてくれた。
うーん、ちょっと前まで赤ちゃんだったのに。子どもの成長って早いなあ。

優香さんは「初めまして」と頭を下げた翔太くんを見て目を細めると「ずいぶんイイ男じゃない?でも、男は稼ぎが一番だよ」とまた身も蓋もないことを言った。

そして私の指輪を見ると「ムムッ!なかなかやるな!」とつぶやいた。

自己紹介をして、今後の段取りの話をしながらお茶をすすってちょっと落ち着いていると、翔太くんが「優香さん」と言って座り直した。

翔太くん、真剣な顔。
どうしたの?

「なあに?」

「ずっと伺いたいと思っていたのですが、あなたは香奈さんが犯罪の被害に遭った時、どうしてあんな酷いことを言ったんですか?」

それを聞いて、優香さんはハッと目を大きくしてから腕組みをした。
私も驚いて優香さんをパッと見た。

「あの時のことか……。香奈ちゃん、気にしてるの?」

「いえ!今は気にしてません」

私が首を振ってそう言うと、翔太くんは間髪入れずに言った。

「でも前は気にしてた。君はあの言葉に深く傷付けられたんだ」

翔太くん?
ホントにどうしたの?
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