残業しないで帰りなさい!
優香さんが言ったあの言葉。
『本当は香奈ちゃんが誘ったんじゃないの?子どものくせに女を意識しちゃってさ』
確かに私は傷ついたけど、今は翔太くんがいるから平気だよ?
「あれねえ、あんなこと言って、私も一生の不覚だったと思ってる」
優香さんの言葉にちょっと驚いた。優香さんが自分が言ったことをちゃんと覚えていたこと自体が驚きだった。
だって、覚えてないと思ってたもん。あっけらかんとした優香さんはそんなこと、とっくに忘れてるって思ってた。
チラッと和彦さんを見て、優香さんは苦い顔をした。
「香奈ちゃんのお父さん、俊夫さんって、すごくイイ男だったじゃない?香奈ちゃんは知らないかもしれないけど、あの人すごくモテたの」
確かに、お父さんって背は高くてかっこよかったかもしれない。
「つまりね、私は熾烈な争奪戦の末にあの人をゲットしたわけ。だから、香奈ちゃんが男に襲われたって言った時、香奈ちゃんがお父さんを私に盗られたと思って、お父さんの気を引こうとしてるって思っちゃったの。ガキのくせに、私に女として張り合ってんの?なんてさ。今考えるとバカみたいよねえ」
そういう理由だったんだ……。初めて知った。
「だからあんな酷いことを言ったんですか?」
翔太くん、声が平坦で怖いです。
「まあ、そうね。……ねえ、香奈ちゃん?」
「は、はい」
「ごめんね」
「い、いえ……」
もう気にしてないから、いいのに。