残業しないで帰りなさい!
「香奈ちゃん。俺が死んだ後、他の男と結婚しちゃダメとは言わない。でも面白くはない」
……あれ?
えっと、そういう方向?
もしかして、やきもちですか?
寂しくても私、再婚なんてしないよ?
「優香さんが、君のお父さんが亡くなった後に再婚した和彦さんと仲良くしてんのを見ると、香奈ちゃんも俺が死んだ後、再婚相手と仲良く生きていくのかって思えてものすごく面白くない。だから俺は意地でも長生きする」
えっと、やっぱりそういう感じ?
翔太くんはやきもち妬きです。
私の恋はもう生涯で翔太くんだけ、なんだけどな。
でも、それは言わないでおこう。そのやきもちを力に変えて長生きしてください。
「翔太くん、長生きしてね。ずっとずっと一緒にいようね?」
「うん、まあ俺はしつこいからきっと大丈夫」
翔太くんはしつこいなんて台詞とは裏腹な、とても爽やかな笑顔で車の扉を開けた。
車に乗ってシートベルトをしたのに、翔太くんはなかなかエンジンをかけない。
どうしたの?
「……香奈ちゃん」
「ん?」
「優香さんも和彦さんもすごくいい人だと思う。香奈ちゃんが彼らと過ごした時間はかけがえのないものだったと思うし、そういう家族の形もあると思う」
「うん……」
今度はどうしたのかな?
翔太くんは左手を伸ばして私の手を握った。
「でも、香奈ちゃんはいつもどこかで遠慮していたんじゃないのかな?優香さんに引き取ってもらえた、和彦さんに養ってもらえたって負い目を感じて気を遣ってたんじゃないのかな?」
「それは……」
……その通りだと思う。
私は確かに負い目を感じていた。いつも申し訳ないって思ってた。
でも、それは仕方ないことだよ?
だって、お父さんが死んじゃって誰も頼る人がいなかった時、赤の他人の私を優香さんは助けてくれた。拾ってくれた。
それってやっぱり気を遣うし、もちろん遠慮だってする。