残業しないで帰りなさい!
季節は廻ってもうすぐ夏本番。
私は今日の出勤を最後に明日から産休に入る。
お腹はびっくりするほど大きく出てきて、ものすごく重いし、暑いし、靴下も一人ではうまく履けない。
思っていたより妊婦って大変です。
お休みに入るにあたって、がんばって引継書も仕上げたし、後をお任せするのは先輩方だから大丈夫。
春には北見さんが育児休業から無事に復帰されて、今はバリバリと働いている。最近は、私の代わりに力持ち担当になってくれて本当に頼もしい。
今日も「10キロの子どもと比べたら、こんな荷物軽い軽い!」なんて言って私の荷物を持ってくれた。
最後に高野係長に挨拶をする。
「ご迷惑をおかけしますが、お休みさせていただきます」
「今のうちに体をゆっくり休めておきなよ。生まれてからが本番だからさ」
高野係長、北見さんにも同じようなことを言ってた気がするなあ。
それから北見さんと白石さんに付き添われてエレベーターに乗り込んだ。
「もー、なんで藤崎さんの方が私よりも先なのよー」
白石さんが口を尖らせた。
「えへへ、すみません」
合コン三昧だった白石さんは、あの素敵な人とはいまいちだったらしく、結局今は同期の峰岸さんとお付き合いをしている。
「白石さんだってもう秒読みでしょ?」
北見さんに言われて白石さんは頭をかいた。
「そうだといいんですけどねー」
エレベーターを降りて外に出ると、車を停めて待っている翔太くんの姿が見えた。
今日は事情を言って早退させてもらったらしい。
翔太くんは北見さんが荷物を持っているのを見てすぐに「持ちますよ」と受け取った。
私はお二人の方を向いて頭を下げた。
「ありがとうございました」
「育児でわからないことがあったらラインしてね」
「戻ってくるの待ってるよー」
「はい」
「じゃあ、行こうか」
翔太くんを見上げたら目が合ったから二人で微笑んだ。
車に乗り込む時、翔太くんは心配して、いつもそっと腰に手を添えてくれる。
助手席に座ってシートベルトをしてから、お二人に手を振った。
にこにこ笑って手を振る二人。車が出発してからも、しばらく手を振っているのが見えた。