残業しないで帰りなさい!
「あのねえ、香奈……。人はそれを『恋』って言うんだよ」
「はあっ?……瑞穂、何言ってんの?」
よく晴れた土曜日。
久しぶりに幼なじみの中村瑞穂と会っていた。
瑞穂とは小学校から高校までずっと一緒の長いお付き合い。こういうのを腐れ縁って言うのかな?
胸のもやもやをどうしても消化できなくなった私は、瑞穂が並んででも食べたいと言っていたパンケーキをごちそうするっ!と呼び出し、話を聞いてもらっていた。
このパンケーキ、フルーツもクリームもどっさり山盛りで、すっごくおいしいなあ。1時間近く並んだだけのことはある。
私は瑞穂に、藤崎課長との間に起こった出来事を一生懸命説明した。
いちょう並木を眺めながら列に並んでいる間も、二人でパンケーキを頬張ってる間も。
そして、一通り話をしたところで、瑞穂がわけのわからないことを言い出したのだった。
恋だなんて……。ホント、びっくりするからやめてほしい。
「アンタが奥手なことは知ってたけどさ、自覚してないわけ?奥手な上にまさかの鈍感?驚くよ、ホント!アンタいくつよ?」
「自覚も何も、そんなことないから!」
私が勢いよく否定すると、瑞穂は黙って大きな苺にフォークをブスッと刺して口に運んだ。
そして、私をじっと見据えたままもぐもぐと口を動かして苺を飲み込むと、わざとらしく盛大にため息をついた。
「それにしても、香奈の初恋の相手がまさかそんなオッサンとはねえ……」
「オッサンじゃないよ」
「おっ、かばってる」
「そういうことじゃなくて!」
本当にオッサンじゃないもん。王子様だもん。っていうか、そんな、初恋だなんて。
……そんなんじゃないもん。