残業しないで帰りなさい!
「そんなの……、ありえないよ。だって最近知り合ったばかりだし」
ふるふると困った顔で首を振る私に、瑞穂はビシッとフォークを向けた。
「何言ってんの!向こうは入社した時から香奈のこと知ってたみたいじゃん」
あ、そうだった……。
課長、どうして私のことなんかが気になったりしたんだろう。背がでかいから、女子社員の中で頭一つ抜けてたのかな?
「……でも、十歳以上も年上の人だよ?立場だってずっと上の人だし」
「年とか立場なんか関係ないって。だいたい、アンタだって喋ってみたらそんなに年の差感じなかったんでしょ?案外そんなもんだよ」
確かに、話してみたら年の差なんて全然感じなかった。でも、それはきっと、課長が上手に気を遣ってくれていたからなんじゃないのかな。
「私なんて、課長から見たら子どもだよ?全然興味ないよ」
「いやいや!そんなことない!むしろ向こうは年下の女の子相手に、相当ビビってると思うよ。だいたいさあ、寝たフリするなんてヘタレ度数高くない?それに、自分のことオッサンって言ってたんでしょ?間違いなくビビってるよ。うら若い女の子が、こんなオッサンに振り向いてくれるわけがないって、思ってるのかもしれないよー?」
「そんなわけ……ないよ」
課長みたいな王子様がそんなこと、思うわけがない。
でも……。
言われてみたら、確かにおかしいっていうか、思わせぶりな発言は多かったかも……。