嫌われ者に恋をしました*エピソードplus
レベッカさんのレシピメモによると『私は中が赤いくらいの焼き加減が好きだから20分くらい。でも、中までしっかり焼きたいならもっと長めに焼いてね』とある。
私はレアは苦手。中までしっかりと焼きたいから、長めにオーブンで焼くことにした。
隼人さんと勝負したところで負けることがわかっているボードゲームをしながら焼き上がりを待つ。
隼人さん、強いんだからちょっとくらい手加減してくれてもいいのに。
「あっ!待って!コレ違うのっ!」
「変えてもいいよ」
「えっ?いいんですか?」
「いいよー」
簡単に変えてもいいよ、なんて怪しい……。ひっかけ?
「……やっぱりやめておきます」
「まあ、それでもかまわないけどね」
「えー?……うーん」
どっちだろう?変えた方がいい?変えない方がいい?
「どうする?」
「うーん、じゃあ、変かえまー……す!」
「そう?いいよ」
もうっ!何よ、その余裕な感じ!変えても変えなくても勝てるって思ってるんでしょう?私のこと、舐めてますね?
そしてその5分後……。
「隼人さん、ズルーい!」
「ズルくないよ、真剣に勝負して俺が勝っただけのことだからね」
「もしかして私、さっきの駒を変えてなかったら勝ってました?」
「いやいや、ここをこうしてこうしたら……ほら!ね?」
「……」
うーん、どっちにしても私は負けていたと?
隼人さんには敵わない。私ったら完全に手のひらで転がされてる。まぐれでもいつかは勝てることがあるのかしら……。
そんなことをして待っていたら、あっという間に焼き始めてからもうすぐ1時間!漂ってきたいい匂いに思わず顔を見合わせる。
ミトンでオーブンから耐熱容器を取り出すと、お肉とニンニクの香ばしい匂いとハーブの香りが漂う。
「おっ!いい匂いだ」
「本当!いい匂い!」
隼人さんが見守る中、仔羊肉の端っこを切ってみると表面はカリリと中はジューシーに仕上がっている。
よしよし!美味しそう!思わずニンマリしてしまう。
「雪菜、そのニンマリは夜の……」
「お料理おいしそうっ!のニンマリです!」
隼人さんの言いたいことはわかってますよ!だから言葉を被せて正しておいた。
「つまんないなー。ま、プレゼントのお楽しみがまだ残ってるからいいけどねっ」
「あのプレゼントって……」
「それはね、夜開けてからのお楽しみ!」
「……はあ」
夜のお楽しみ、ですか?……まあ、隼人さんが楽しそうだから私はそれだけで良いのです。
だって、会社の隼人さんは残酷な判断も平然と下す冷酷な部長さんでしょう?
いろんなことがたくさんあって、毎日とても疲れて帰ってくるのに、私に当たることなんて絶対になくて、むしろ助けてくれる素敵な旦那様。
だから、お休みの日に隼人さんが家にいて、私のそばで楽しく笑ってのんびり過ごしてくれるだけで、私は嬉しくて幸せなのです。