嫌われ者に恋をしました*エピソードplus

 その後、食べ過ぎたから少しは体を動かそうか!ということで、お散歩に出かけた。

 ドイツでは、イースターは休日だからお店はほとんど閉まっている。いつもより少し静かな街を抜けてアルスター湖畔の公園を手をつないで歩いた。

 天気も良くて、いいお散歩日和。

 木漏れ日の揺れる昼下がりの公園を隼人さんと一緒に歩くだけで、のんびりと幸せな気持ちになる。

 ゆっくりと歩きながら、花ちゃんとここでよくカリーブルストを食べること、料理教室のこと、時々連絡を取り合っているミノリちゃんのことなんかを話したら、隼人さんは嬉しそうに私の話に耳を傾けてくれた。

 そして花ちゃんがなかなかドイツ語を覚えない話をすると、隼人さんは思い出したように言った。

「そういえば阿久津さん、この4月から斉藤支部長に代わって支部長になるんだよ?その話、聞いてる?」

「えっ?……花ちゃん、そんなこと一言も言っていませんでしたけど」

「ふーん。やっぱり奥さん、知らないんだ。阿久津さんの奥さんって、会社で阿久津さんが何してるのか全然気にしてくれないらしくてさ、かなり寂しがってたよ」

「……あはは」

 きっとそうに違いない。花ちゃんは旦那さんのことが大好きなのに、なぜか仕事のことは全然知らないし興味もない。

 それにしたって、夫の昇進くらい気にしてあげてもいいのに。花ちゃんらしいと言えばらしいけれど。

「この感じだと阿久津さんは10年コースだね。まだまだドイツにいることになると思うよ」

「そうですか」

 花ちゃん、ドイツ語ちゃんと覚えなくて大丈夫なのかな……。まあ、花ちゃんなら大丈夫、かな?

「でも俺は、あと1年で日本に戻りたいと思ってるんだ」

「あと1年、ですか?」

 そうなの?1年なんて、あっという間に過ぎてしまいそう。ちょっと寂しい気もしてしまう。

「当初の目的はクリアしてユーロ圏の経営方針転換は固まったからね。あとはレールに乗せて出だしを確認するだけだよ」

 隼人さんは本当にお仕事が早いんですね。私はまだまだドイツの生活が長くなると思っていたけれど、あと1年しかないなんて。

 それともまだ1年もあるって考えた方がいいのかな?

「じゃあ、あと1年間ドイツの生活を思う存分楽しまないと!ですね?」

「うん、そうだね」

 隼人さんはクスッと笑った。どうしたの?
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