嫌われ者に恋をしました*エピソードplus
思えばこの頃から少し匂いに敏感になっていたような気がする。
「ほらほら!これでも食べて元気を出しな」
花ちゃんにフルーツの入ったケーゼクーヘン(チーズケーキ)を勧められたけれど。いつもは気にならない香辛料の香りがなんとなく気になる……。
そして、花ちゃんに「紅茶はカフェインが入ってるからやめておいた方がいいよ」と言われ、めったに飲まないグレープフルーツジュースを頼んだら、非常に美味しく感じた。
うーん。なんか、いつもと違う。
嗅覚とか味覚は妊娠すると変わるのかしら?
花ちゃんはつわりはほとんどなかったらしいけれど、上の子の時も下の子の時も、妊娠中は炭酸の飲み物が飲みたくて耐え難かったらしい。そういうのは人それぞれ違うのかな。
その夜、帰ってきた隼人さんに「まだ心拍がわからなかったんです」と不安を打ち明けたら、優しく髪を撫でられて「心配しすぎるのが一番体に良くないよ。大丈夫だから」と包み込まれた。
はあっと息を吐いて目を閉じる。
やっぱりこの包まれる感覚が大好き。不安がスルスルほどけるように消えていく。
そのままの流れで「ぎゅーってして」と甘えてしまった。
隼人さんは困ったように笑いながら「そんなに強くはできないよ?」とそっと優しく抱き締めてくれた。
いつもよりもソフトでゆるりとした力加減。
隼人さん、お腹の子どもがいるから、かなり気を遣ってくれている?私も不安だけれど、隼人さんも不安なのかな?
お互いに初めてのことだもの。私も不安だけれど、隼人さんだって不安なんですよね?
そう思ったら力が抜けた。
一緒に不安を分かち合い、ぴったりくっついて癒される。隼人さんは私の一番の特効薬なのです。
そしてその1週間後、もう一度婦人科で超音波検査をしてもらったら、今度はしっかり心拍が確認できた。
嬉しくて、本当に嬉しくて、飛び上がりたいくらい嬉しくて、そっとお腹に手を当てて心の底から安心したのでした。