嫌われ者に恋をしました*エピソードplus

 隼人さんと一緒にお礼の電話をすると、相変わらず勢いのあるお母さんの声が受話器の向こうから響いた。

「隼人がお腹にいた時はね、梅干しがめちゃめちゃ美味しく感じたのよ!だから、雪菜さんも食べてみて!それにその梅干し、一粒一粒が大ぶりでしょ?高級品なのよ、それ!そっちじゃ手に入らないでしょ?」

 確かに大きくて立派な梅干し。日本にいても自分では買わない贅沢品です。

 お母さんに心からのお礼を言い、隼人さんに受話器を渡すと、少し顔をそらせて「うん、うん」とうなずきながら隼人さんは真剣な表情をした。

 ふーっ。

 お母さんの勢いに少し疲れてしまった。あの勢いにはなかなか慣れないけれど、お母さんには本当に良くしていただいていると思う。

 ソファーにもたれて隼人さんをぼんやりみつめる。

 もしかしたら、あの話をしているのかな……。

 妊娠をお母さんに伝えた時、お母さんが唐突に言い出したのだ。

「ドイツで出産するの?日本に戻って産めばいいじゃない!雪菜さんだって、その方が安心でしょ?」

 日本に戻って出産する?
 そんなこと、言われるまで考えたこともなかった。

 その方が安心なのかな?
 確かに日本では言葉が通じるし、手続きも分かりやすいのかもしれない。

 でもその場合、いつ日本に行けばいいんだろう?

 予定日の直前、というわけにはいかないだろうし。きっと予定日の1ヶ月とか2ヶ月前には日本に戻ることになる。

 でも、隼人さんはドイツでお仕事があるから、ずっと日本にはいられない。

 ただでさえ不安なのに、出産前の期間を隼人さんと離れて過ごすなんて……。安心どころかむしろ不安しかないと思うけれど。
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