嫌われ者に恋をしました*エピソードplus

 しばらく沈黙した後、隼人さんは静かに口を開いた。

「雪菜」

「……はい」

「この間からうちの母親が、日本に戻って産めばいい、なんて言い出したから、気になってたんじゃないかな?」

 隼人さんの問いかけに小さくうなずく。
 やっぱり、そのお話ですよね?

「今まで話し合わなかったけど……」

 そう言ってから、隼人さんは一度口をつぐんだ。

「……?」

 少しの沈黙に嫌な予感が心をかすめた次の瞬間、隼人さんは大きく息を吸った。

「雪菜は、日本に戻るのはイヤかな?」

 急に明るく切り替わった隼人さんの口調に目を大きく開く。嫌な予感は色濃く変化し、焦りと不安を感じた。

「そう……ですね。これまでドイツで出産するつもりで準備を進めていましたし、何より隼人さんと離れたくありませんから、私はこのままドイツにいたいです」

 不安な気持ちを消したい焦りから、少し早口になった自分の言動を後悔して、また不安になった。

「うん。そっか」

 隼人さんはもう一度床に視線を落とした。

 え?……やだ。
 隼人さん、どうしたの?
 その沈黙、すごく不安。

 隼人さん、もしかして日本で出産した方が良いと思ってるの?離れ離れになっちゃうのに、どうして?

 隼人さんは私と離れても平気なの?
 その方が私のためだと思っているの?
 日本で一人で過ごす方が私のためだと?

 それは違う!
 そんなの、全然私のためになんてならない。

 私、隼人さんと離れたくない。
 隼人さんと一緒にいたいの。
 一人にしないでほしいの。
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