嫌われ者に恋をしました*エピソードplus

 一人で日本に帰って一人で産むなんて、考えもしなかった。そんなの、不安でたまらない。

 不安に押し潰されて胸が一杯。
 すごく、気持ち……悪い。

「……私、隼人さんと離れたくない」

 苦しくて耐えきれず、うつむいて呟いたら、隼人さんは急いだように、でも柔らかくそっと私を抱き寄せた。

「俺だって、雪菜と離れたくないよ」

 頭の上から響く、落ち着いた優しい声……。

 そっと腕の中に包まれている感触。
 じんわり心地よい温かさ。
 それだけで不安が溶けて消えていくのを感じる。

 いつもと変わらない隼人さんの温もり。
 いつもと同じ隼人さんの声。

 だんだん心が回復してきたから、なんとなく避けていた、さっきの隼人さんの台詞を思い出してみた。

『日本に戻るのはイヤかな?』

 ……。

 やっぱりそれだけを聞くと、私に日本へ帰ってほしいみたいに聞こえるけど……。

 隼人さん、いったい何を考えているの?
 何か考えがあるの?

 私が小さく動いたら、隼人さんの体が息を吸うのを感じた。

「今まできちんと話せてなかったから、まずは一度情報を整理してから一緒に考えようか」

「……はい」

 そうですよね。
 その通りです。

 情報を整理しようだなんて、隼人さんらしい冷静なご提案。確かにそれってとても大事なことだと思う。

 だって、既に私はわけもわからず不安な気持ちに振り回されてしまっているもの。
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