嫌われ者に恋をしました*エピソードplus

 隼人さんは私を体から少し離すと、優しく、でも少し困ったように微笑んだ。

「イースターの時、あと1年で日本に戻りたいっていう話をしたの、覚えてる?」

 隼人さんの言葉を聞いて、少し考えてからハッとした。

「あっ……」

 ……そういえば。

 イースターの休日。
 木漏れ日が揺れる昼下がりの公園。
 手を繋いでのんびりとお散歩をしたあの日……。

 隼人さん、言ってましたね。

『あと1年で日本に戻りたいと思ってるんだ』

 話を聞いた時は、ドイツの生活があと1年なんて寂しい、なんて思ったんだ。

 でも、まだ遠い先のことみたいに薄ぼんやりとしていて、現実味のある話とは認識できてなかった。

 あの後、特に話さないまま時間は過ぎて……。
 ……そのまま、忘れてしまっていた!

 なんということだろう。
 完全に忘れていただなんて。
 そんな自分にショック。

 隼人さん、呆れてるかな?
 こんなに大切なことを忘れるなんて……。

「思い出した?」

「……はい。私ったら……。ごめんなさい」

 申し訳なくて眉を寄せて謝ると、隼人さんは目を細めてフッと笑って私の頭をそっと撫でた。

「いや、いいんだ。俺もちゃんと話せてなかったし。でもね、来年の4月には日本に戻る方向で話を進めてる。仕事の割り振りとか、整理し始めてるんだ」

「……そうなんですね」

「出産予定は2月だろ?予定通りに産まれたとしたら、その1か月後には日本へ引っ越さないといけない。そんなの、大変だと思うんだ」

 確かに……。

「それは、そうですね」

 ドイツで産んでも、すぐ日本に戻ることになる。赤ちゃんがいて、引っ越しの準備をして、引っ越しをして……。

 それはかなり大変そう。

 だから、先に日本に戻ってほしい、ということだったんですね?
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