嫌われ者に恋をしました*エピソードplus
「雪菜を守るためなら何だってするよ」
キュンとする痛みが心地よくて、いつまでもその感覚に浸っていたくなる。
そんな乙女心とは裏腹に、隼人さんは中指でスッと眼鏡を押し上げると、レンズをキラリと光らせた。
「俺は大概のことなら無駄なく完璧にこなす自信がある」
ん?
……まあ、そうでしょうね。
急にどうしました?
「でも、自分の子どもが産まれることも育てることもさすがに初めてだし、どんなに本を読んでも、本当に俺にどこまでできるのか、雪菜に負担をかけずに引っ越しまでこなせるのか、自信が持てないというのも正直ある」
「……」
自信が持てない、なんて珍しく弱気な発言。
私も不安だけれど。
隼人さんも不安なのかな。
初めて産婦人科に行った頃、「ぎゅーってして」って甘えたら、そっとそっと包むように抱き寄せてくれたことを思い出した。あの時、隼人さんも不安なんだと感じた。
そして、ふと気が付いた。
隼人さん、本を読んだって言ったけれど、育児書でも読んだの?
隼人さんが眼鏡にスッと指をあてながら、真面目な顔で育児書を読む姿を想ったらなんだかおかしくて、思わず頬が緩んでしまった。
そんな私を見て微笑んだと思ったのか、隼人さんは寂しげな瞳をして私の頬をそっと撫でた。
「自分の無力を認めるみたいで嫌だったんだけど、雪菜にとって何が良いのかを真剣に考えた時、出産を控えた雪菜にはうちの母親の所に行ってもらうのが最善なんじゃないかと思ったんだ」
「え!?」
お母さん?
「……ええっ!!」
お母さんの所!?
予想外の言葉に、思わず顔を上げて大きな声を出してしまった。