嫌われ者に恋をしました*エピソードplus

「あ、やっぱり嫌?」

「いえっ!嫌とかそういうことではなくて……」

 驚いただけだから、急いで否定する。

「いや、あのデリカシーのない連中に雪菜を預けるのは、俺も正直どうかとは思ってるんだけどね」

 わざとらしく首を振る隼人さん。いつもネタみたいにそんなことを言うけれど。

「本当に嫌じゃないんです。私、日本に戻ったら一人で過ごすものだとばかり思っていたから、驚いてしまって……」

 本当にそう思っていた。
 出産前と出産後の時期を一人で過ごすことが不安だった。

「日本で、一人で、過ごす?」

 隼人さんは怪訝そうに首を傾げた。

 あれ?
 うまく伝わらない?

「ええ、隼人さんのマンションに一人で戻るのかなって……」

 だから、陣痛が来ても一人でなんとかしなきゃ、とか考えていた。
 臨月と産後は動くのが大変みたいだから買い溜めしておかなきゃ、とか。
 日本でもヘバメさん(産後ケアをするドイツの助産師さん)を探さないといけないのかな?とか。
 ヘバメさんが家に来るなら、部屋を綺麗にしておかなければ、とか。

 日本に戻った方がいい、と言われた時、その時期を一人でどう過ごすのか、寂しさだけではなく、現実問題の不安が私には次々と押し寄せていた。

「一人で?陣痛が来たらどうするつもりだったんだよ?」

「えっと、だから、一人で何とかしなければって考えていて……」

「あのね、雪菜」

 低い声のトーンにそんな予感はしたけれど、見上げた隼人さんは目を細めて私をじっと見ていた。

 この感じ、ちょっと怒ってますね?

「そんな大変な時期に、雪菜を一人にさせるために日本に返すと思ったわけ?俺は今、大切な雪菜を守るって話をしてるんだけどね」

「……」

 少し強めの口調でそう言われても、うまく返事をできない自分がいる。

 だって……。

 いいのかな?

 お母さんの所でお世話になるなんて、迷惑じゃないのかな……?
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