嫌われ者に恋をしました*エピソードplus

「……お母さんの所って、皆さんいらっしゃるんですよね?お父さんもお母さんも、悠人さんも。……いいんでしょうか?」

「いいんだよ。母親もそうしてほしいって言ってるんだから」

 そうしてほしい、なんて……。
 本来ならありがたい話なのかもしれない。でも、そんなありがたい話を喜べない私がいる。

 だって。

 隼人さんのご家族とはいえ、よく知らない人たちの中に飛び込むだけでも大変なことなのに、身重の体ではきっと手伝いもロクにできない。何も出来なくて、きっとお荷物になる。

「……やっぱり迷惑ではないでしょうか」

 人に迷惑をかけたくない。
 重荷になりたくない。
 それなら体はキツくても、一人の方が楽。

 隼人さんのご家族は私が迷惑だからって意地悪をしたりはしないと思う。でも、口には出さなくても内心迷惑だと思うだろう。
 一緒に住んでみたら役に立たなくて全然ダメね、なんて思われたくない。

 私は隼人さんのご家族が大好き。
 自然体で、とても優しくて、私を受け入れてくれて。
 そんな大好きな人たちだからこそ、嫌われたくない。
 あの人たちから使えない人間に向けられる微妙な空気を感じるのが怖い。

 シュン、と沈んでため息をついた私を見つめる隼人さんの視線を感じた。

「迷惑……、ね」

「……はい」

「……」

 隼人さんの沈黙にまた不安になって、気持ちはどんどん沈んでいく。

 隼人さんは小さく息を吐くと、うつむく私の肩に手をまわし、大きな手のひらで柔らかく包み込んだ。
 その手の暖かさに思わず目を閉じる。

 あんなに落ち込んでいたのに、大きな手に包まれるだけで癒される。不安を溶かす魔法の手。

「雪菜」

 ふんわりと包み込む手は暖かいのに、妙にハッキリ響く声に違和感をおぼえて目を開けた。

 見上げると、隼人さんは真剣な瞳で私を見つめていた。

「雪菜は自分の存在を軽視する傾向があると思う」

 ツキンと胸が痛んだ。
 その言葉は確信を持っていて、ひんやりと静かに響いた。

「雪菜は他者との人間関係が発生した時に、自分は我慢すべき存在、と最初から位置付けてしまうんだ」

「……それは」

 そう、なのかな?
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