嫌われ者に恋をしました*エピソードplus

 家族なんて、私には縁がなかった。
 そんな私も妊娠して、家族の感覚をなんとなく掴みかけている、ような気はしていた。
 でも、いつの間にか家族はできていたみたい。
 ……いつの間にか、じゃない。
 結婚したから、かな?

 結婚するって、夫婦になるとか、戸籍の手続きだけじゃなくて、そういう諸々を含んでいたんだってことを、改めて実感した。

 私は隼人さんだけじゃなく、もっと広い関係性で包まれている。

 隼人さんが伝えたいことは、理解できる。
 心配してくれていることも、よくわかる。
 隼人さんのお母さんもお父さんも、悠人さんだって、笑顔で受け入れてくれるって、わかってる。

 だからと言って、そう簡単には馴染めないとも思う。

 ……少し考えたい。
 それに、だんだんつわりが辛くなってきた。

「少し……」

「うん?」

「もう少し、時間をください」

 目を閉じて、口で短い息をしながら、隼人さんの胸に頭を預けた。

「大丈夫?辛い?」

「……うん」

「横になる?」

 言葉が出てこなくて、小さくうなずいたら、隼人さんは肩を包んだ手をそのままに、もう片方の腕を私の膝の下に差し込むと、手慣れた様子でふわっと私を抱き上げた。

 グラッと揺れる一瞬の不安定さと、力強い腕と胸に包まれる安心感が好き。
 そっと慎重にベッドに寝かせてくれる感覚も、好き。

 目を閉じて胸焼けに耐えつつ、こんなにも隼人さんに甘えることが出来ている自分を楽しむ気持ちを噛み締める。

「……ありがとう」

 苦しくて、かすれた声しか出ない。

「うん」

 うなずきながら、心配そうに頬にかかった髪をそっと耳にかけてくれる、その長い指の仕草も大好き。

 隼人さんのそばにいられて、私は本当に幸せ。

 日本に戻ったら、隼人さんの家族だって、私を大事にしてくれるのかもしれない。
 でも、このつわりが辛い状況では、隼人さんと離れるなんて、うまく思考が働かない。

 ちょっと、疲れた。
 まぶたが重い……。
< 124 / 134 >

この作品をシェア

pagetop